第3話 菖蒲・7

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そがんこつ(そんなこと)できるっちゃやろかと思ったけんが、このままじゃ悔しいし、ダメもとでミスコンにエントリーしたっちゃん。そしたら、最終審査まで残してもろうて。正直、うちもびっくりしたとよ」 「いや。オリーブちゃんは、御前崎ちゃんとタイプ違うけど可愛いしスタイルもいいから最終まで残ったのは順当だと思うけど」 「ばってん(でも)、困ったとよ。うちに特技と言える特技なんかないっちゃから。しいて言うなら食べらる草とそうじゃない草の知識ぐらいしかなかが(ないのよ)ね」  彩子は両手を広げて「やれやれ」だか「お手上げ」だかのポーズを取った。  だが、家永は 「素晴らしい特技だ。無人島に実験に行くときは、ぜひご同行願いたい」  と絶賛する。 「家永先生は、無人島に、しかも実験しに行く予定があるんかよ?」  門脇がさすがにそこは見過ごせずに突っ込んだが、家永は聞こえないふりをした。 「ところで門脇は、いつからミスコンの副賞になったんだ?」  菊池が羨ましそうに訊く。 「知らねー」  門脇は、とことん興味なさそうだ。  興味があるのは 「でもさ、先生。正田先輩って、そんなヤツだっけ?」  と、いうことだった。  水辺にて我が理想郷を作らんと、せっせせっせと裏庭の世話に出かけていた平和な姿しか思い出せない。そんな妹を煽るようなことをするとは、とても思えない。 「確かに、そんな感じはしなかったが……」  菊池がもっしゃもしゃと食べるので、残り少なくなったポテチを横にスライドさせ、家永は虎の子に取っておいたアーモンドを一粒ずつチョコでコーティングした菓子を渋々出した。 「まあ、考えてもみろ。草に詳しい妹を俺に自慢げに話すヤツだ。ミスコンに出ろというくらい、かなり妹を溺愛していると思われる」 「だな、だな。オリーブちゃん、可愛いもんな。兄ちゃんの気持ち、分からないでもない」  家永が新しく出したチョコを、菊池は遠慮皆無でポイポイと口に放り込んだ。 「……菊池先輩……」  正田彩子は、菊池の方に向き直った。
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