第1話 桜・2

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「そういや、今日、入学式だったぜ」  門脇はガザガサと眼の前のレジ袋の中身を取り出した。せっかく買った貴重なサンドイッチがつぶれぬように、丁寧に机の上に並べた。 「そうか。そんな時期か」  ようやく今日が入学式だったと気付いた家永に 「大学の先生って、式に参列しないんだな」  と門脇が聞いた。 「義務はない。教授になったら、そうもいかないだろうが。それだって限られた教授だけだ」 「学校代表だけが参列ってことか」 「そうだ」  的確過ぎるほど門脇の話に受け答えはするものの、家永の目は依然モニターに釘づけだ。 「今年の入学式代表挨拶、下手くそだった。超噛み噛み」 「緊張したんだろう」 「緊張なんかすることねえだろ。俺、二年前の入学者代表で挨拶したけど、もちろん噛まなかったぜ」 「そうか」  家永の素っ気ない返事に 「……関心ねえんだな」  呆れて門脇が言う。 「多分、その時も実験してたと思う」 「やっぱ、とことん関心ねえんじゃないか」  浮世離れというか……。  行事にも成績優秀者にも関心示さない家永に、門脇は (まあ、そういう人だよな)  と思う。  あれだけ自分のことに構わないのだ。他人のことなら尚更だろう。 (でも、知己先生だけは別……と) 「んなに優秀な学生が研究生としてやってきて、家永先生、嬉しいだろ?」  自分を親指でさして言えば、 「ソウダナ」  今までで一番棒読みに答えられた。 「なんだよ、それ。成績上位の俺様が来てやったんだぞ。もっと喜んだらどうだ?」 「……そういうシステムだから仕方ない」
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