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「そういや、今日、入学式だったぜ」
門脇はガザガサと眼の前のレジ袋の中身を取り出した。せっかく買った貴重なサンドイッチがつぶれぬように、丁寧に机の上に並べた。
「そうか。そんな時期か」
ようやく今日が入学式だったと気付いた家永に
「大学の先生って、式に参列しないんだな」
と門脇が聞いた。
「義務はない。教授になったら、そうもいかないだろうが。それだって限られた教授だけだ」
「学校代表だけが参列ってことか」
「そうだ」
的確過ぎるほど門脇の話に受け答えはするものの、家永の目は依然モニターに釘づけだ。
「今年の入学式代表挨拶、下手くそだった。超噛み噛み」
「緊張したんだろう」
「緊張なんかすることねえだろ。俺、二年前の入学者代表で挨拶したけど、もちろん噛まなかったぜ」
「そうか」
家永の素っ気ない返事に
「……関心ねえんだな」
呆れて門脇が言う。
「多分、その時も実験してたと思う」
「やっぱ、とことん関心ねえんじゃないか」
浮世離れというか……。
行事にも成績優秀者にも関心示さない家永に、門脇は
(まあ、そういう人だよな)
と思う。
あれだけ自分のことに構わないのだ。他人のことなら尚更だろう。
(でも、知己先生だけは別……と)
「んなに優秀な学生が研究生としてやってきて、家永先生、嬉しいだろ?」
自分を親指でさして言えば、
「ソウダナ」
今までで一番棒読みに答えられた。
「なんだよ、それ。成績上位の俺様が来てやったんだぞ。もっと喜んだらどうだ?」
「……そういうシステムだから仕方ない」
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