第3話 菖蒲・7

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 門脇は、ラッパ飲みの要領で残ったポテチをザラザラと口に流し込むと袋を乱暴にワシャワシャと畳んだ。それを捨てに椅子から立ったついでに、 「コーヒーのおかわりいる人ー?」  小学校の先生のように聞いたら、これまた小学生さながらに菊池を含む全員がまっすぐに手を上げ、キラキラした目で門脇を見つめる。 「……分かった」  三人の揃った行動がおかしくて笑いがこみ上げたが、それを堪えて、門脇はコーヒーを入れに流しへと向かった。  シャツの上からでも分かる逞しい門脇の背中に見とれつつ、彩子は菊池に 「門脇先輩は……やっぱ、お、お胸がおっきい人が好きなんやろうか?」  小声でこっそりと尋ねた。 「それがものすごく言いにくいんだが……」  菊池が腕を組んで言い渋る。 「なんね。教えてよぉ」  縋る彩子に、菊池はまんざらでもなさそうだ。 (お、おい。まさか菊池君、平野のことを喋る気か……?)  家永がぎょっとしていると、菊池は 「門脇は胸の大きさで人を判断しない。むしろ、ない方が好き」  と、含みのある言い方をした。 「え? 本当?」  彩子が、にわかに微笑む。 (……菊池君こそ、どこまで門脇君のことを知っているのだ?) 「だったら……その、うちも期待できる?」 「できる、できる」  菊池のあまりに軽い言いっぷりは、正田兄のことをどうこう言えた筋合いはない。  呆れた家永が 「彩子君、酔っ払いの言うことを真に受けるな。菊池君もそんなに気安く答えていいのか? 君はよくミスと一緒のようだが、そもそもどっちの味方なんだ?」  思わず釘を差す。すると 「俺は可愛い子の味方っスよ、先生」  菊池はすこぶる真剣に答えるのだった。 「そもそも男はおっぱい星人なんだ。だのに、門脇の奴、全然御前崎ちゃんになびかねえから、見ているこっちはやっきもっきやっきもっき……」  まだ幾分酒が残っているのか。菊池は、「やっきもっき」をしつこく繰り返すが、彩子は聞いていなかった。 「……そっか。御前崎先輩に全然なびいてないのかぁ」  ことさら嬉しそうに彩子が微笑んだ。 (平野……。お前んとこの卒業生が、また面倒を拗らせているぞ……)  家永は門脇からコーヒーのおかわりを受け取りながら、そう思った。
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