第3話 菖蒲・8

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第3話 菖蒲・8

 慌ただしいミスコン終了後、三日が経過した。  その日も御前崎美羽と近藤大奈は、学食でカフェオレを飲みながら菊池と門脇がやってくるのを待っていた。  時刻にして11時15分。昼食を摂るにはまだ早い。今あっている講義が終わるまで後30分はかかる。  美羽は、少しずつ集まる学食の人の中に門脇が混じっていないかと熱心に眺めていた。  もしも門脇が居たら、一番に声をかけたい。 「あ、あの人達……!」 「ん?」  手持ち無沙汰で携帯を弄っていた大奈が、美羽の声に顔を上げた。 「文学部の先輩よ。どうしたんだろ? 顔にいっぱい青あざができてる。あ、……その隣のお友達もあちこちに包帯巻いてるわ」 「あら。本当ね」  大奈は、その二人に見覚えがあった。  ミスコンの時に、前の方に陣取っていた二人だ。 「この間会った時はケガなんかしてなかったのに……。二人して階段でも踏み外したのかしら」 「……ねえ、美羽」  一抹の心配が浮かび、大奈が美羽に話しかけた。 「門脇君って、かなり記憶力いい方よね」 「そりゃ、全国4位の頭脳の持ち主だし……どうでもいいことは忘れるけど、大抵のことは覚えているわよ。しかも頭脳だけじゃなく、眼もいいのよね」 「ん? どういうこと?」 「大奈、前に元・担(平野先生)が、めちゃ悪口言われた時があったじゃない? あれ、覚えてる?」 「ああ、それもミスコンだったわね。八旗高校の、男だらけのミスコン……」  苦笑いを浮かべる大奈に、美羽は 「そう。あの時よ」  と大きく頷いた。 「あの時、恩義に厚い門脇君は元担(平野先生を)ヤジったその人たちを許せなくて締めようとしたの。あの大勢詰まった体育館の中で、ヤジった人の顔を覚えていたのよ」  門脇の話を嬉しそうにする美羽に (だったら、確定じゃないの……?)  大奈は、文学部先輩のケガした理由を想像して青ざめた。 「それがどうかした?」 「ううん」  大奈は誤魔化すように携帯の方に視線を落とした。   「ところで大奈は、さっきから何を見ているの?」  美羽は興味半分に尋ねた。 【関連P】「教育ノススメ。+」https://estar.jp/novels/25782664/viewer?page=273
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