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「でも、私、何もしていないわ。こんな素敵なもの、もらえない」
美羽は申し訳なさそうに、断った。
「そがんことなか」
即座に彩子は否定する。
「実は、あの後うちが勘違いしてたってのも分かったっちゃん。本当に御前崎先輩には不必要に迷惑かけたが。悪かぁっち思うとる。でも、だからというて、今回のことで先輩に引け目なんか感じとうなか。真っ向、門脇先輩を賭けて戦いとう思うちょるんよ」
「あ……もしかして、これで今回のことは水に流そうってこと?」
「そっちゃ!」
少し照れたように笑う彩子が、思いっきり頭を振った。
だが、彩子の気持ちが籠もったプレゼントを受け取る大義名分ができた。
「いいわ。私も正々堂々あなたと門脇君を奪い合いたい。このプレゼント、有難く受け取るね」
美羽が晴れ晴れとした顔を彩子に向けると、
「我ながら最高のデキやけん、先輩には美味しく食べて欲しいとよ」
彩子も笑顔で応えた。
(何なの、この会話……)
大奈は、壮絶に殴り合った後になぜか和解できる少年漫画にありがちな展開を見ているような気分に陥った。
(私には、分からない世界だわ)
理解不能になっている大奈の向かいで、美羽は
「あ、ねえ、正田さん。あなたのご先祖様ってすごく偉い人だった?」
と、彩子に話を振っていた。
「知らん。うちの家系は、代々水飲み百姓っち、母は言うとらすと」
「そうなんだ」
「今でも農家しとらすけん、季節ごとに採れた新鮮な野菜ば、ちょいちょい送ってこらすとよ。この間は、じゃが芋でその次は玉ねぎやった」
彩子は実家の新鮮野菜が自慢だった。
「わあ、いいなぁ。新鮮な野菜。美味しんでしょ?」
と美羽が言うと、彩子はますます上機嫌になった。
(御前崎先輩、優しかぁ。うちに合わせて、実家の野菜ば褒めてくれちょる)
「もちろん、新鮮なのは甘くてうまかばい。実はそれなんやけど」
彩子は美羽に渡した小箱を指さした。
「この間送ってきた野菜ばつこうて作ったものっちゃん」
「わあ、何かしら」
野菜チップス?
キャロットケーキ?
かぼちゃプリン?
それとも、クッキーかな?
美羽はワクワクして、彩子がくれた小箱のリボンを解いた。
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