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そういえば、先ほど門脇が帰る時に
「先生、ずいぶん溜まってそうな顔してんなぁ」
と家永のあまりよくない顔色を見て、心配そうにしていた。
データの解析に行き詰り、そんなに疲れが溜まっているように見えたかと思ったが、どうやら違ったようだ。
「今日、たまたま菊池から2本せしめたんだ。ちょうどいい。1本は、ここに置いていく。これでスッキリしろよ」
と、なにやら差し入れらしきものを机に置いていったようだったが、モニター見つめる家永は顔を上げるのも面倒で、それが何かを確認しなかった。
「栄養ドリンクか何かを置いていったのかと思ったら、門脇君め……!」
大抵のことには狼狽えない家永だったが、今度ばかりは違った。
仕事がうまく進まないストレスもあってか、いつもより沸点が低い。
わなわなと唇を震わせて罵ると
「な?! これ、門脇先輩が置いて言ったもんなん?」
さっきまで汚らわしいものを見るような反応示していた彩子が、手の平返しで、嬉しそうに手に取った。
「……ああ。そうだ」
忌々しげに、それでも首を縦に振って家永が肯定すると、
「へぇー、ほー、ふーん……」
ある意味、下半身限定の栄養ドリンクにはなりそうなDVDを、彩子はクルクルと表にしたり裏にしたりして眺めた。
「門脇先輩は、こがん体型の女子が好みかぁ。……そりゃあ、ばよえ~んな御前崎先輩になびかん筈ったい」
美羽が聞いたら憤死しそうなことを無自覚に口にすると、
「本当にお胸の大きさは関係ないんだ。むしろ、ない方が好きと菊池先輩も言っとらした。門脇先輩がマニアックな人で、うちは運がいいたい」
彩子はしみじみと語った。
(……果たして、そうだろうか?)
仕事の難航と門脇の置き土産の所為で、家永の顔により濃く疲弊の色が浮かぶ。
(あいつはマニアック中のマニアックだぞ)
と、うっかり口を滑らしそうになり、家永は口を引き結んだ。
言ったが最後、彩子から「なしか? どげして?」と質問攻めに遭うのは目に見えている。
(……面倒だから、黙っておこう)
家永が改めてモニターに向かうと、
「じゃあ、先生。お先ー」
と彩子は嬉しそうに研究室を出ていくのだった。
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