第4話 薔薇・2

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第4話 薔薇・2

 その日の昼食時間に、電話はかかって来た。 「げ?! 門脇……?」  着信の画面の文字を読み、八旗高校職員室で弁当を食べていた平野知己の箸は一旦止まった。  成り行きで番号を教えたものの、門脇は滅多なことでは電話をしてこない。その辺は(わきま)えた男だった。  それで (門脇から電話なんて、珍しいな)  とは思いつつも、なにせ相手が門脇だ。電話に出る気になれずに (どういうつもりだ?)  と門脇の真意を測りかねて携帯と睨めっこする。  数度のコール音が気になった隣の席のクロードが 「電話、出ないんですか?」  とクロワッサンサンドを食べながら聞いてきた。 「それが……門脇からなんだ」 「ああ、それは出るのに迷いますね」  知己に同意して頷く。  そんな話をしていたら、10回ちょうどでコール音がピタリと止んだ。 「……何だったんでしょうね?」 「……」  出たくはないが、それはそれで気になる。  やっぱり知己が携帯を見つめていると 「どうしたんですか?」  今度は、お茶を淹れて配ってくれる坪根卿子に聞かれた。 「今、門脇から電話があって」 「まあ、どうしたんでしょ?」 「それが……電話に出ようかどうしようか迷っている間に切れちゃったんです」  知己は卿子から湯呑を受け取りながら答えた。  前任校から一緒のクロードと知己は、気心知れた同僚だ。卿子は、お茶配る順番の一番最後にしている。すっかり空になった盆を胸に抱え 「んー……。門脇君って、あんまり電話かけなさそうなイメージですが」  卿子は首を傾け、緩く巻いたウェーブの髪を揺らした。 「その通りです。これまでも、ほとんどかかってきません」 「だったら、よほど大事な用事だったのでは?」  卿子だけではない。  クロードも、卿子からもらったお茶をすすりつつ 「そんなに気になるのだったら、かけ直したら?」  と言う。 (そうだな。かけ直そう)  と思ってた矢先に、またもや門脇から電話がかかってきた。  今度こそ電話を取った知己は 『このやろ、早く電話に出やがれ!』  門脇から速攻怒られた。 「すまん」  怒られた条件反射で知己は謝った。  謝った端から (理不尽な)  と思わないでもない。  だが、理不尽も無理も無茶も全部腕力で押し通す門脇だ。  その辺は言うだけ無駄と、知己は黙って用件を聞くことにした。
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