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『家永先生が電話に出ねえんだ』
(……家永、気持ちは分かるぞ)
先ほど「門脇」からの電話に躊躇しまくった知己は、激しく同意した。
「お前、家永に着拒否されるようなことを……」
『してねえ!』
速攻否定したものの、門脇は
『……とも言えねえ』
と更に否定を重ねてきた。
『思い当たる節は、ある』
残念な自白に
「……何をしたんだ?」
と知己が尋ねた。
『俺から、心からの差し入れをしたんだが……。絶対に好きだと思うものを研究室に置いてきたんだが……。
もしかして、あれが電話に出ねえ原因か?』
やたらと『だが』を付ける門脇にしては歯切れの悪い言い方に
(一体、何を差し入れたんだ?)
と知己は考えをめぐらした。
まさか、自分そっくりの女優が、えぐいほどあえぐアダルトDVDを差し入れた……とは想像つかなかった。
『いや、違うな。それが原因じゃねえ。俺も【俺だけ電話にでねえのかよ?】と気になって、念のため家永研究室在籍の先輩たちにも電話してもらったんだが、誰の電話にも出ねえからな』
その点は抜かりない門脇だ。
だが、ここまでの話で分かったのは家永が電話に出ないということだけ。
「すまん。話がさっぱり見えん。門脇、最初からちゃんと話してくれ」
知己は
(門脇でも狼狽えることがあるんだな)
と思った。
『今朝から家永先生が大学に来てねえ。午前の授業もすっぽかしたし、研究室にも来てねえ。実験抱えている先輩たちが困って、研究室自体は大学教務部に頼んで合鍵で開けてもらったんでなんとかなった。だけど、肝心の家永先生が全く姿を現さねえんだ』
「それは……変だ」
大学の講義をすっぽかすなんて、普段の家永ではありえない。
ましてや、文字通り三度の飯より実験と研究が大好きな家永が研究室に現れないのはおかしい。
『だーかーら! 気になって電話してみたんだ』
「なるほど」
『昨日からデータ解析に煮詰まってて、あんまり顔色もよくなかったんだ』
「あぁ。あいつ、研究のことになると寝食忘れるからな。体調崩すことは、割とよくある」
『そんなの俺だって知ってる。マウント取んな』
知己は、自分の知ってる家永情報をただ伝えただけのつもりだった。
(え? 今のってマウントになるのか?)
やっぱり(理不尽だ……)と思った。
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