第1話 桜・2

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 1・2年生の間は一般教養を取り、研究生となるのは3年生からである。  それまでに学生は各々の研究したい研究室や学びたい教官を選ぶ。大学入っての二年間はそのための期間でもある。  だが、研究生の受け入れ人数は決まっていた。過剰な受け入れは指導もできないし、研究にも支障が出るからだ。人気の研究室・教官の所に人が偏らないように、シビアにも成績上位者順に、希望研究室に受け入れられるようになっていた。  性格に難ありだが、門脇の優秀さは入学者代表挨拶に始まり、1・2年の時のテスト、レポートでも証明済み。教官たちの間にも広く知れ渡っていた。軒並み理学研究の教官たちは門脇を欲した。でも、門脇の気持ちは「家永研究室」一択だった。追随を許さない成績のおかげで、門脇は希望通り家永研究室の一員となった。  ただ、そこに家永(教官)の拒否権がないわけではない。  この研究生入門制度の過程は公にはされないのだ。教官がなんらかの原因……例えば授業態度の悪い学生の受け入れを拒否することはできた。だから家永も本当に嫌なら断っても良かった。  門脇蓮は、平野知己の知り合いということで、1年生の時から何かと理由を付けては家永研究室に入りびたっていた。  はじめは家永も (鬱陶しいな)  と思っていたが、態度も口も悪いこの男が、最悪な第一印象と違って、かなり優秀で研究熱心な男だと次第に分かった。  だから、家永は内々の教官拒否権を使わなかったに過ぎない。  例え家永研究室に入れてもらえずとも、門脇ほどの優秀な学生なら、どの教官も研究生として迎えたがっていたので、研究室難民にはならなかったと思われた。  言ってみれば、この研究生入室の制度。学生と教官の両想いでなければ成立しない。  それを分かっているから、門脇は強気な態度に出ていた。
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