第4話 薔薇・2

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『だから、さ。先生も家永先生に電話してみてくれ』 「そりゃ、俺も家永が心配だから電話くらいするが……」  門脇の真意がいまだ分からないが 『【するが……】じゃねえ! いいから、やれ! 今、すぐにだ。で、終わったら俺に報告しろ』  と言うなり、電話を切られてしまった。当然、意図を聞き出す前に。  門脇のあまりにも横柄な態度に、言う通りにするのもなんだか癪だが、それ以上に家永のことが心配だ。 (ぶっ倒れてるんだろうか? 講義の仕事にも出られないくらい)  すると (……あいつ(門脇)なりに、すごく心配しているんだろう)  と思えてきた。何せ(……門脇だもの)と考えたら、横柄な態度も溜飲が下がる。  言われるがままに、知己は家永に電話した。 「……」  だが、いつまで経ってもコール音のみで、家永は一向に電話に出ない。  気付くと話が聞こえた卿子とクロードも、何やら心配そうに知己を見つめている。 (そうか、二人も家永と全く知らない関係じゃない)  今年の2月、自分を最高のだと自負する高校生・梅木敦と、なぜか女装対決する羽目になった。その時に家永が見に来てくれ、知己のバックアップ務めたクロードと卿子に挨拶を交わしたのだ。 (……どっちかというと俺は見られたくなかったが)  どうせ梅木敦(※)がペラペラと喋りまくったんだろう。女装対決の情報掴んだ門脇が、面白がって家永を誘ったと思われた。  そうこう考えていたら、コール音はゆうに20は超えたと思われた。  さすがに諦め、心配そうにみつめる卿子達に、眉毛を下げて緩く首を横に振る。すると、ますます卿子達は心配そうに黙って知己を見つめるのだった。 「門脇に頼んでみます」  二人を安心させたいのもあるが、それ以上に家永が心配だ。  一刻も早く事情を掴みたい。  知己は門脇に電話をかけ直した。  門脇は1コール途中で出た。 「出ない」  知己が端的に報告すると 『相手が知己先生でも出ないとなると、事態はかなり深刻だな』  ぼそぼそと門脇の感想が聞こえる。 「門脇。俺、今から家永の住所を教えるから……」 『助かる。行って様子見てくる』  知己の言葉を遮って、門脇はまさに今、知己が頼もうとしていた言葉を言った。 ※敦、濡れ衣です。喋ったのは、クロードです。
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