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第4話 薔薇・3
知己の教えられたとおりの住所に行くと、そこは学生も使用するロフト付き1LDK。マンションでもアパートでもない、いわゆる「コーポ」と言われる集合住宅だった。
「こんな所に住んでいたのかよ。普通に学生と鉢合わせしたりしねえのかな?」
一言ぼやいた後に、門脇はドアホンを短気にも3回ガガガと連打する。それに呼応して、ピンポピンポピンポーンと音はしたが、一向に返事はなかった。
「居ねえのか?」
苛立ち紛れにドアを乱暴に回すと、それはあっさりと開いた。
「……不用心だな。鍵もしてねえ」
心の声を駄々洩れにドアを開けて、呼びかける。
「うぉーい、家永先生、生きてるかー?! わ、死んでる?!」
小さな玄関を入ってすぐのキッチン、奥に8畳の居住空間、その上部に物置にしているロフトがある。
キッチンと居住空間の間に家永はうつぶせで倒れていた。
これは119番か? いや110番か?
(いずれにしろ通報案件だな)
と、門脇は急ぎ携帯を取り出したが
「……生きて……いる……」
ぼそりと家永が反応を示した。
「あ、良かった」
通報案件でなくて、門脇は本当に安堵した。
「何やってんだよ? 先生」
靴を脱ぎながら聞いた。
「君が……けたたましくやってくるものだから、今、起きた……」
門脇の乱入に目を覚ました家永はゆっくり起き上がろうとして、またパタリと横倒しになった。
「おい!?」
思わず門脇が傍に駆け寄り、体を支えた。フローリングの床スレスレでキャッチしたが
「……俺に、触るな!」
突然、虫の息かと思われた家永に、ハッキリと言われた。
身体を強打する所を救ったのに、褒められこそすれ、怒鳴られる筋合いはない。
門脇は
「はあ?」
怒りを顕に、
(知己先生以外に触れられたくないってことか?)
「ムカつく! 人が心配して来てみたら……なんだ、その態度!」
と売り言葉に買い言葉的に言い返した。
だが、家永は目を瞑ったまま、門脇の言葉なぞ聞いていない様子。しかも、何やら家永の口元はゴニョゴニョと動いている。
(なんか様子がおかしいな……)
門脇は家永の唇に耳を寄せた。
「……昨日、シャワー、浴びてない……」
「乙女かよ!」
拍子抜けする理由に、門脇が怒鳴る。
「汗……臭いかも、しれん……。だから、俺に触らないでくれ」
「はあ?! んなこと、ねえだろ?!」
門脇は、家永の襟首掴んで強引に上半身を起こさせると、鎖骨付近に顔をずぼりと埋めた。
そのまま深く息を吸い込んだ。
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