83人が本棚に入れています
本棚に追加
「ぅっ……! ぎゃ、あああぁぁぁ!」
あまりのことに家永が叫んだが、
「大丈夫だ、全然臭くねえ! ちょっと汗の匂いがするだけだ」
それ以上に強い態度で門脇は言い切った。
「何が『大丈夫』なものか! そのちょっとが嫌なんだ! ……っていうか、門脇君。君、酔っているのか?! 師弟で似たような酒癖か(※)?!」
襟首を掴まれているので逃げられない家永があわあわと言う。
「どういう意味だ? 俺はシラフだぞ」
言われた意味が分からない門脇だが、それよりもすごく気になることが生まれていた。
「ってか、変だな。一晩寝かせておかなくても男の体なんて、体臭で臭そうなのに、先生の汗の匂いは臭くねえ。何でだ?」
不思議に思い、門脇は、再び家永の首元に顔を埋めた。
「……っう、きゃぁぁぁぁ!」
そうでなくても腕力で全く敵わないのに、ヘロヘロ状態の家永の抵抗など、屈強な門脇の前では何の意味もなさない。風の前の塵に同じ、だ。
「んー……、やっぱり何度匂っても臭くねえ。むしろなんだかいい匂いだぞ、家永先生は」
真っ赤になって嫌がる家永を全く気にせず、門脇は思う存分『猫吸い』の要領で『家永吸い』を続けた。
「ひぃー」も「うぎゃー」も言い疲れて、吸われまくった家永がすっかり抵抗諦め、くたりと弛緩した時だ。
「あ! こうしちゃいられねえ」
不意に門脇は、先ほど「通報せねば」と取り出しかけてた電話を今度こそ取り出した。
「ちょっと知己先生に電話するぜ」
前置きすると門脇は、家永の「思う存分吸われた話だけはしないでくれ……」という弱々しい懇願をそよ風のように聞き流し
「おう、先生! 家永先生、生きてたぞ」
と端的に知己に報告した。
『……っ! ……良かっっっっったー!』
めちゃくちゃ溜めて、知己は喜んだ。
「でも、ろくに動けないくらいに瀕死状態だ」
だが、ここまでの瀕死に追いやったのは、他でもない門脇だ。
『なにぃ?! やっぱ、そうだったか』
知己も、たやすく予想できた家永の弱った姿だった。
(※)門脇蓮の高校時代の教師・平野知己は酒癖が悪く、酔っぱらうと近くにいる人の襟首掴んで襲う癖があります。
【関連小説】「後・教育ノススメ。」スター特典
「知られざる知己の酒癖」https://estar.jp/extra_novels/25468105
最初のコメントを投稿しよう!