第4話 薔薇・3

2/5
前へ
/190ページ
次へ
「ぅっ……! ぎゃ、あああぁぁぁ!」  あまりのことに家永が叫んだが、 「大丈夫だ、全然臭くねえ! ちょっと汗の匂いがするだけだ」  それ以上に強い態度で門脇は言い切った。 「何が『大丈夫』なものか! そのが嫌なんだ! ……っていうか、門脇君。君、酔っているのか?! 師弟で似たような酒癖か(※)?!」  襟首を掴まれているので逃げられない家永があわあわと言う。 「どういう意味だ? 俺はシラフだぞ」  言われた意味が分からない門脇だが、それよりもすごく気になることが生まれていた。 「ってか、変だな。一晩寝かせておかなくても(やろう)の体なんて、体臭で臭そうなのに、先生の汗の匂いは臭くねえ。何でだ?」  不思議に思い、門脇は、再び家永の首元に顔を埋めた。 「……っう、きゃぁぁぁぁ!」  そうでなくても腕力で全く敵わないのに、ヘロヘロ状態の家永の抵抗など、屈強な門脇の前では何の意味もなさない。風の前の塵に同じ、だ。 「んー……、やっぱり何度匂っても臭くねえ。むしろなんだかいい匂いだぞ、家永先生は」  真っ赤になって嫌がる家永を全く気にせず、門脇は思う存分『猫吸い』の要領で『家永吸い』を続けた。 「ひぃー」も「うぎゃー」も言い疲れて、吸われまくった家永がすっかり抵抗諦め、くたりと弛緩した時だ。 「あ! こうしちゃいられねえ」  不意に門脇は、先ほど「通報せねば」と取り出しかけてた電話を今度こそ取り出した。 「ちょっと知己先生に電話するぜ」  前置きすると門脇は、家永の「思う存分吸われた話だけはしないでくれ……」という弱々しい懇願をそよ風のように聞き流し 「おう、先生! 家永先生、生きてたぞ」  と端的に知己に報告した。 『……っ! ……良かっっっっったー!』  めちゃくちゃ溜めて、知己は喜んだ。 「でも、ろくに動けないくらいに瀕死状態だ」  だが、ここまでの瀕死に追いやったのは、他でもない門脇だ。 『なにぃ?! やっぱ、そうだったか』  知己も、たやすく予想できた家永の弱った姿だった。 (※)門脇蓮の高校時代の教師・平野知己は酒癖が悪く、酔っぱらうと近くにいる人の襟首掴んで襲う癖があります。 【関連小説】「後・教育ノススメ。」スター特典 「知られざる知己の酒癖」https://estar.jp/extra_novels/25468105
/190ページ

最初のコメントを投稿しよう!

83人が本棚に入れています
本棚に追加