第4話 薔薇・3

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「そういえば、電話をかけたと……?」 「おう。みんなでかけたぞ」 「そうか。電話は……確か、鞄に入れっぱなしだ。取ってくれ」  起きるのが億劫そうに家永が玄関脇に放置された鞄を指さす。 (この人、こんな所に鞄を放置して、鍵もかけずに爆睡してたのかよ)   不用心さに呆れつつ、門脇は鞄の中を覗いた。  そこには昨日貸したDVDと携帯などが無造作に突っ込まれていた。 (こんなんじゃ、いつもの起床時間でアラームが鳴っても、いくら電話が鳴っても、気付くわけねえか)  ぽいっと家永に投げ渡すと、家永は難なく受け取って、手早く着信履歴を確認した。  ずらりと並んだ今日の着信履歴。  門脇や家永研究室の学生たち、大学関係者の中に、「平野知己」の文字を見つけた。 「本当だ」 「疑ってたのかよ」  なんだか無性に腹が立たしい。  門脇は 「知己先生の名前見つけて、嬉しいか? 心配してもらえて嬉しいか?」  ねちねちと揶揄い始めると、家永は 「絡むな。それだけじゃない。他に重要な連絡が入ってないか、見ただけだ」  鬱陶しそうに眉を顰めた。  だが、門脇は (「それだけじゃない」って言った時点で、知己先生の名前探してたのバレバレ)  と、更に不機嫌レベルを上げた。 「『今は正常』なら、さっさと起きれよ」 「それが少し眩暈と頭痛がする」  ふわふわとした眩暈に襲われて、家永は立てないでいた。 「それ、生きている範囲に入っているのか?」 「生きているから、君と会話もできているんだろう」  なにやら禅問答みたいにもなってきた。 「先生。そもそも何がどうして、こうなった? なんでこんな所で眠ってんだ?」  後10歩くらい歩いたら、快適なベッドにたどり着けたものを。  家永は、しばし昨日の記憶を探った。 「……昨夜、22時過ぎたくらいか。教棟の明かりがどこにもついていないのに気づいてな、どうも学校に残っているのが俺一人だったようだ」 「うわ。あれから一人で、まだ残ってたのか」 「俺もさすがにまずいと思って、帰宅したのだが。家に帰りついて夕飯でも用意しようと思った辺りで、どうも記憶がない。おそらく転んだか倒れでもしたんだろう」  淡々と昨日の記憶を語るが、なかなかに重たい話だ。 「倒れた時に意識を失ったのか?」 「いや、その時はまだ意識があった……と思う」  また『思う』を付けた。  どうにも家永の話は、曖昧だ。
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