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「意識あったんなら、なぜ起きなかった?」
「フローリングが冷たくて気持ちいいなと思っていたら、いつの間にか眠っていた」
確かに、連日暑さを増す今日この頃。冷たいフローリングが気持ちいいのも分からないではない。
(家永先生においては、ご健勝の欠片もございません、な……)
不健康な生活送る我が師に門脇は呆れた。
「だけど、もうちょっと頑張ったらベッドがあったのに。なんだよ、フローリングの床の真っ平さが、知己先生の胸の中っぽかったのか? 今度俺も試してみようかな」
「……門脇君。君の煩悩を語るな」
例えは秀逸。中肉中背の平野知己の胸の中ならば、まさにフローリングごとき真っ平でカチカチだろう。家永は、最高の夢心地で眠りに落ちたということになる。
「飯、作る前に寝落ちたと言ってたな」
「ああ」
未だに起き上がる気配がない家永に
「その眩暈。糖分……いや、塩分不足じゃねえか? 待ってろ、なんか食えるもん作ってやる」
「すまん」
「気にすんな。知己先生とも約束したから、な」
門脇は立ち上がり、とりあえず何かないかとすぐ傍にある冷蔵庫を開けてみた。
「……なんで『サッポ〇一番』が、冷蔵庫に入ってんだ」
「ああ、それはそこにあったか」
「は?」
「昨夜ラーメンでも作ろうと思って手にしていたのだが、いつの間にかどこかにやってしまっていた」
インスタントの袋麵さえ作れずにリタイアしてしまう倒れっぷりとは、どういうものか。
「これ、作ってやろうか?」
「やめてくれ。今、そんな高カロリーなものを食べる気分じゃない」
「……おい。昨日の晩、これを食おうとしてたの誰だよ」
「こういう時は低カロリー高タンパクな食事だ。鶏肉と卵の入った雑炊が食べたい。葱も散らして」
「普段、不健康な生活を送っているくせに、作ってもらえるとなると突然健康志向になりやがる」
改めて冷蔵庫を見渡す。
「鶏肉も卵もご飯もない」
「買ってきてくれ」
「後で、金払えよ」
「もちろんだ。君に奢られるなど、アリエナイ。後で怖いことが待っていそうだ」
「病人のくせに、いちいち口うるさいな」
門脇は、玄関のドアに手をかけた。
「あ、門脇君」
「なんだ?」
「すまんが、イオン飲料も買ってきてくれ」
「あー、はいはい。分かった」
とことん注文してくる家永に呆れながらも、門脇は近くのスーパーへと駆け出していた。
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