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第4話 薔薇・4
「なあ、門脇君は平野のどこが好きなのだ?」
買ってきてもらったポカリスウェットを飲み干すと、ようやく動ける元気が出たらしい。のそのそと家永は、隣室のベッドへ移動しながら尋ねた。
(イオン飲料は吸収早いって本当だな)
と門脇は思いながら、携帯で「鶏雑炊」を検索しつつ
「唐突だな。どうしたんだ、急に」
と聞く。
「そうでもない。君は、ここに来て何度も平野の名を口にしている」
たどり着いたベッドに家永は億劫そうに上った。ごろんと横になるなり、持っていたペットボトルを脇のゴミ箱めがけて投げる。カコンと軽い音を立てて、それはゴミ箱の中に納まった。
「うーん。そうだな。改めて言われるとよく思い出せないんだけど、好きだと思ったきっかけは、知己先生がすぐに謝るところだな」
「謝る?」
部屋に備え付けの一人用システムキッチンの棚から小鍋を探し出すと、門脇は水を底から2㎝ほど溜めて火にかけた。
「俺の赤い髪だけど、これ、生まれつき」
門脇は既に小さく切ってある「親子丼用」の鶏肉を、豪快に鍋に投入している。
言われて、家永は門脇の後ろ姿を眺めた。
確かに、赤茶色の髪だ。
正田彩子も「赤い髪なびかせて」と、当時・高校生だった門脇のことを言っていた。
「大学に入った今じゃ、赤どころか金髪も青も緑もピンク頭だっているけど、高校まではかなり目立ってた。『生まれつきだ』と言っても、誰も信用しねえ。俺を目の敵にしやがって『ヤンキーだ』『イキがって染めてるんだろ?校則違反だ』と、うるさい教師ばっかだった」
鶏肉を煮ながら、門脇はレンチンご飯を慣れた手つきで温めると、それを半分ほど鍋に入れた。
残った半分を見て、
(うーん。これっぽっちを余らせてもしょうがねえか)
と結局、全部投入した。
「それどころか『黒く染め直してこい』と言う。ムカついて『校則違反を教師が勧めんな』というと、躍起になって『生意気言うな』『最初に校則違反したのはお前だ』って安っちい反論をぎゃあぎゃあしやがる。そうなると面倒なんで、睨む。まあ向こうも言っている矛盾に気付いているんだろうな。最後はすごすごと退散するわけだ」
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