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「まだか?」
「まあ、待て。今、蒸らしているとこだ」
門脇は、せかす家永を制した。
「謝るって、すっげー難しいことだと思うんだ。よく漫画とかで『悪くないから、俺は謝らない』とか『心の籠ってない謝罪はしない方がいい』とか偉そうに言う場面があるけど、あれ、逆だと思う。『心籠ってないけど、謝れるのなら謝った方がいい』。だって、本当は自分は悪くないと思っているのに謝るのって、それなりに自分の心抉る行為だぞ。それでも自分が謝ったら、相手の言い分を立てることになる。うまくいく。すっげ心がタフじゃねえとできねえと思うんだ。安っちいしょうもないプライドよりも、相手のことを大切に考えているってことにならねえか?」
そういうと門脇は、湯気がびっしりついた鍋の蓋を一瞬だけ取り、手早くパック葱の半量を放り込んで、再び閉めた。
(速っ……)
と家永が見つめていると
「余熱で葱に火を通す!」
携帯のレシピ通りにしていると門脇がご丁寧にアピールした。
「平野は次男だぞ」
突然、家永が言った。
「ん?」
思ってもみなかった知己情報に、門脇が食いついた。
「それは、『次男だから俺の家に嫁に来ても問題ない』ってことか?」
「なぜ、そうなる?」
家永の顔に、理解不能と書いてある気がした。
「あいつは元々根が素直というのもあるが、弟っていう立場なんだ。両親や兄貴から比較的弱い立場で育っている。家族や周りと上手くやるために、自然と身に付けたスキルだろう。すぐに謝るというのは」
家永は冷静に分析したつもりだったが、
「でも、自分が悪いと思ったらちゃんと謝れる人は偉い」
それを門脇は一刀両断にした。
「まあ……そうだな」
ベッドからヨロリと起き上がり、ローテーブルに着く。
(謝る、謝らないは別として……)
心に思ったままに行動できたのなら、平野知己は今頃親友ではなく、もっと違った存在だったかもしれない。自分の心にブレーキをかけてかけてかけまくった結果、今がある。分かったのは、逃した魚は大きな存在だったということだ。
そう思い至り、
「俺も心がけよう」
と呟いた。
「んん?」
反論もなく素直な家永を、門脇は振り返った。
何やら考え込んでいる家永だったが、門脇にはおとなしく鳥雑炊を待ち焦がれているようにしか見えなかった。
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