第4話 薔薇・4

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「できたぞー」  ようやくできた雑炊を大きめの椀に2杯よそって、門脇がやってきた。 「君も一緒に食べるのか?」  意外そうにする家永に 「なんで嫌そうにしてんだよ」  仕事机兼食事用にも使うローテーブルに、椀を置く。 「いや、別に嫌そうになどしてないが……」 「誰かさんの所為で昼飯食いっぱぐれたし、雑炊大量にできちまったし……、お、うめえ。適当に作った割にうめえな、これ」  門脇は苦情から一転、自分の作った雑炊を口に運んだ途端にご満悦になっていた。  確かに、鶏出汁をしっかり吸った米粒も美味いが、蒸らして適度に固まった半熟卵が絶品だ。崩して流れ出た黄身と一緒に食べると、なお美味い。  そして家永は約24時間ぶりの食事だった。  しばらく二人は黙々と食べていたが、不意に家永が 「君は午後の授業は取ってないのか?」  と聞いてきた。 「おう。今日は午前の先生の授業だけだ」  多分、嫌味だ。 「……すまん。今回ばかりは反省している」 「本当に反省しろ。不摂生やめろ」  早速素直に謝ってみたのに、門脇の追い撃ちが来た。 (解せぬ……)  家永が顔を顰めていると、門脇から 「先生は?」  と聞かれた。 「午後の授業はないが、これを食べたら、昨日の続きをしに大学へ行こうと思う」 「お前は、ば・か・か!?」 「……」  家永は、これまでの32年の人生を振りかえってみた。 「神童」だ「天才」だ「こういっ(晃一)ちゃんは、ちょっと教えたらなんでん(何でも)すぐ分かるっとねー!」と褒められたことは数あれど、某リアクション芸人が頭を指さしながら罵るように突っ込むこの言葉だけは、言われたことがなかった。  しかも指導する研究生から……である。指導教官へ間違っても言うべき言葉ではない。  家永の中で、常識がバグを起こしていた。  戸惑う家永に、 「頭痛がするんだろ? 眩暈するんだろ? 午後は授業ねえんだろ?」  門脇は口頭での波状攻撃を行った。 「眩暈は、もうない」  門脇の口撃(こうげき)の隙間を縫って家永が反論すると 「まだ頭痛は残っているじゃねえか」  鬼の首を取ったかのように言われた揚句、めちゃくちゃ凄まれた。
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