83人が本棚に入れています
本棚に追加
「かっわいくねえな。俺に来てほしかったくせに」
「門脇君に可愛く思われなくて結構だ」
「朝飯もロクに食わねえ先生のこと考えて、買い出しに行ったんだぜ。もっと俺のこと、有難く思えよ」
「……そうだな、感謝はしている」
家永は、先ほど門脇が並べた長机の上のサンドイッチを見た。
購買部では、幻だのツチノコ並みの出現率だのと言われるほど、いつもは店頭に出るとすぐに売り切れてしまうサンドイッチ。中でも超人気のたまごサンドとカツサンドだ。
「レアものゲット、ありがとう」
普段は穏やかな家永の目が輝いた。
「だったら無関心装ってないで、ちょっとくらい言ってくれてもいいんじゃね?」
「何をだ?」
「言ってくれなきゃ、今からでもよその研究室に行っちゃうぞ」
「だから何をだ」
「『俺が欲しい』って」
「……………………………………………………はあ?」
かなりの間を置いて、家永が
(何を「はないちもんめ」みたいに言わせたいんだ? こいつは?)
な顔をした。
「ほら、先生。さっさと言えよ」
「……っ」
「素直に『門脇君が欲しい』って言わなきゃ、ご褒美あげないぞ」
ご褒美と言って、門脇は長机の上のものを指した。
レアものサンドと、朝からフル活動の脳へのご褒美プリンと研究室の煮詰まったコーヒーでは味わえない極上のブレンドコーヒーに、キラキラのエフェクトがかかって見えるようだ。
だがあまりに鷹揚な態度の門脇に、家永晃一は素直に従えない。むすっと口を引き結び、
「……言わん」
と返事を絞り出した。
「……これだから大人は嫌いだ」
門脇は呆れるが、家永も負けていない。
「門脇君も去年20歳を迎えて、大人の仲間入りをしただろう。その言い方は狡くないか」
「俺は、大事なこと言えねえ大人になったつもりはねえな」
お互いに一歩も譲らない膠着状態に思えた。
だが、不意に
くくくー
と微かに音がした。
最初のコメントを投稿しよう!