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「なぜ、こんなに作ったんだ?」
鍋の中を覗き込んで家永が言う。
「レンチンご飯1パック投入したからだ。ここまでかさ増しするなんて思わなかった。正直、俺も驚いている」
「今、無理して食わなくてもいい。俺が夕飯に食べる」
「ははん」
門脇が鼻で笑った。
「まず、先生が夕飯をちゃんと食うかどうかが怪しいだろ。つーか、俺が食いたいんだ」
昼食抜きというのもあって、門脇もまだ腹に余力がある。
門脇は鍋に残っていた雑炊を、米の一粒も残さずに家永と自分の椀にさっさと注ぎ分けてしまった。
小さな頃から「よそわれたご飯は、絶対に全部食べなさい」を厳しく躾られている家永は
「夕飯は、どうするんだ?」
門脇からもらったおかわりを食べながら尋ねた。
「そこまで面倒見るかよ。甘えんな」
ごもっともな門脇の意見だった。
(確かに、な……)
あまりにもホイホイ世話を焼いてくれるので、つい甘えた発言をしてしまった。
家永が猛省していると、不意に門脇が
「……まあ、俺もそこまで鬼ではない」
急に手の平返したかのように言う。
正田彩子も、門脇のことを「悪鬼羅刹の所業」だと言っていた。
家永は
(門脇君は少なからず自分の言動が『鬼』であるという自覚があるのだな)
と思った。
「今日買ったレンチンご飯と卵はまだ残っている。ついでに、お湯を注ぐだけでできるインスタント味噌汁と、日持ちしそうなパンや食材を買っといた。それから、ヨーグルトとゼリー。これなら、食欲なくっても食えるだろ? あ、スポーツドリンクも大きいペットボトル1本買っておいたから、しっかり飲んでおけよ」
思ったよりも至れり尽くせりな門脇の買い物だった。
そして、雑炊を食べ終わると
「お! これって、すごくね?」
と財布から「¥3333」と印字されたレシートを出す。
ついでに、
「元気の素をセットしておく」
と余計なお世話にも、家永の鞄から例のDVDを取り出すと、デッキに挿入した。
「これで、完璧」
と、自分の働きっぷりに自己満足して揚々と帰っていくのだった。
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