第4話 薔薇・4

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「なぜ、こんなに作ったんだ?」  鍋の中を覗き込んで家永が言う。 「レンチンご飯1パック投入したからだ。ここまでかさ増しするなんて思わなかった。正直、俺も驚いている」 「今、無理して食わなくてもいい。俺が夕飯に食べる」 「ははん」  門脇が鼻で笑った。 「まず、先生が夕飯をちゃんと食うかどうかが怪しいだろ。つーか、俺が食いたいんだ」  昼食抜きというのもあって、門脇もまだ腹に余力がある。  門脇は鍋に残っていた雑炊を、米の一粒も残さずに家永と自分の椀にさっさと()ぎ分けてしまった。  小さな頃から「よそわれたご飯は、絶対に全部食べなさい」を厳しく躾られている家永は 「夕飯は、どうするんだ?」  門脇からもらったおかわりを食べながら尋ねた。 「そこまで面倒見るかよ。甘えんな」  ごもっともな門脇の意見だった。 (確かに、な……)  あまりにもホイホイ世話を焼いてくれるので、つい甘えた発言をしてしまった。  家永が猛省していると、不意に門脇が 「……まあ、俺もそこまで鬼ではない」  急に手の平返したかのように言う。  正田彩子も、門脇のことを「悪鬼羅刹の所業」だと言っていた。  家永は (門脇君は少なからず自分の言動が『鬼』であるという自覚があるのだな)  と思った。 「今日買ったレンチンご飯と卵はまだ残っている。ついでに、お湯を注ぐだけでできるインスタント味噌汁と、日持ちしそうなパンや食材を買っといた。それから、ヨーグルトとゼリー。これなら、食欲なくっても食えるだろ? あ、スポーツドリンクも大きいペットボトル1本買っておいたから、しっかり飲んでおけよ」  思ったよりも至れり尽くせりな門脇の買い物だった。  そして、雑炊を食べ終わると 「お! これって、すごくね?」  と財布から「¥3333」と印字されたレシートを出す。  ついでに、 「元気の素をセットしておく」  と余計なお世話にも、家永の鞄から例のDVDを取り出すと、デッキに挿入した。 「これで、完璧」  と、自分の働きっぷりに自己満足して揚々(ようよう)と帰っていくのだった。
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