第4話 薔薇・5☆

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(平野……!)  そう思うだけで、どくんと心臓が跳ね上がる。 (これだから夢は、始末に負えん……)  いつもの冷静さを取り戻そうと思ったが、ままならない。  夢だと分かっているのに、無性に体が熱くなり、目の前の平野知己を抱きしめたくなる。悪戯に微笑むその唇に自分の唇を重ねたい衝動に駆られる。  そうしないのは、(夢の中くらいなら……)と思う自分が、未練がましいと浅ましく思うからだ。  心理学専攻の教授が言っていた。 「夢とは脳のとも言われるが、その実、人の心理が深く関わっている。不安要素の反映だったり、かつての記憶の具現化だったり」  残念ながら、不安要素もかつての記憶も心当たりが大有りだ。  うっかり(平野にされたら……)などと思ったのが、間違いだった。  そっくり女優ならまだ割り切れて愉しめたかもしれない。だのに、平野知己の姿になった途端、家永の理性がぐずぐずに溶けた。そのくせ完全には消えずに、衝動を抑えるいびつなブレーキになっている。 「ふふふ。家永。今日は俺にお任せだ」  女優の動きそのままに、平野知己が家永の変化兆したその部分に頬を擦りつけた。 「お前が自分自身を構わないのなら、俺がいーっぱい構ってやるからな」  にやりと小悪魔の微笑みを浮かべると、サキュバス(女性の淫魔)……、いやインキュバス(男性の淫魔)と化した平野知己は、愛おしそうにそこに唇を寄せた。 「やめっ……!」  思わず叫んだ家永の制止など意味をなさない。本当に嫌なら突き飛ばすなり逃げるなりすればいいのに、家永もAVの男優と同じく、金縛りにあったようにされるがままだ。 「……っ!」  平野知己がその部分に口付けるわずかな重みを感じて、家永が身じろいだ。 「……ん? もしかして、ちょっとおっきくなった?」  家永の反応を嬉しそうにする平野知己に (人の気も知らないで……!)  心の片隅で恨めしく思う。  目が覚めた時に絶対に空しく思うに決まっているのに、どうしてこうも無駄なことをしてしまうのか。
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