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(平野……!)
そう思うだけで、どくんと心臓が跳ね上がる。
(これだから夢は、始末に負えん……)
いつもの冷静さを取り戻そうと思ったが、ままならない。
夢だと分かっているのに、無性に体が熱くなり、目の前の平野知己を抱きしめたくなる。悪戯に微笑むその唇に自分の唇を重ねたい衝動に駆られる。
そうしないのは、(夢の中くらいなら……)と思う自分が、未練がましいと浅ましく思うからだ。
心理学専攻の教授が言っていた。
「夢とは脳のあそびとも言われるが、その実、人の心理が深く関わっている。不安要素の反映だったり、かつての記憶の具現化だったり」
残念ながら、不安要素もかつての記憶も心当たりが大有りだ。
うっかり(平野にされたら……)などと思ったのが、間違いだった。
そっくり女優ならまだ割り切れて愉しめたかもしれない。だのに、平野知己の姿になった途端、家永の理性がぐずぐずに溶けた。そのくせ完全には消えずに、衝動を抑えるいびつなブレーキになっている。
「ふふふ。家永。今日は俺にお任せだ」
女優の動きそのままに、平野知己が家永の変化兆したその部分に頬を擦りつけた。
「お前が自分自身を構わないのなら、俺がいーっぱい構ってやるからな」
にやりと小悪魔の微笑みを浮かべると、サキュバス……、いやインキュバスと化した平野知己は、愛おしそうにそこに唇を寄せた。
「やめっ……!」
思わず叫んだ家永の制止など意味をなさない。本当に嫌なら突き飛ばすなり逃げるなりすればいいのに、家永もAVの男優と同じく、金縛りにあったようにされるがままだ。
「……っ!」
平野知己がその部分に口付けるわずかな重みを感じて、家永が身じろいだ。
「……ん? もしかして、ちょっとおっきくなった?」
家永の反応を嬉しそうにする平野知己に
(人の気も知らないで……!)
心の片隅で恨めしく思う。
目が覚めた時に絶対に空しく思うに決まっているのに、どうしてこうも無駄なことをしてしまうのか。
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