第4話 薔薇・5☆

8/12
前へ
/207ページ
次へ
「……ぃ、いいのかっ? 君は……ぁっ」  どうしても上がる息で、言葉が途切れ途切れになる。 「君こそっ、俺相手に、ぃ、イケるのか……っ?」  門脇蓮こそ、平野知己が5年前から大好きだと語っていったばかりじゃないか。 (夢の中の門脇に聞いたって仕方ない……)  と思わないでもないが、誤魔化すために飛び出した言葉は引けない。 「はあ? 堕天使舐めんなよ!」  なぜか怒られた。 「は、……ぁッ?」 「堕天使は、不特定多数の所に降臨しねえ。好きな奴のとこにしか来ねえんだぞ!」  もちろん、AVにそんな台詞はなかった。AVそのものが門脇の言う「不特定多数」の為に作られたものだ。 「ぃ、意味が分からない、が……?」 「ごちゃごちゃうるせえな! とにかく、こーゆーものは溜め込んでると体に毒だっつーの!」 「や、やめっ! うわぁぁぁぁ……っ!」  家永との話に苛立った門脇は、報復とばかりに手のスピードを1段階上げた。 「こぉの! まだ、出さねえのか!? 強情だな!」 「うぅ、あっ……」  ずちゃずちゃといういやらしい水音が響く。家永は、だんだん目の前が真っ白になってきた。 (いかん! 早くチェンジしてもらわないと……!)  誰でも良かった。  とにかく門脇でない誰かに代わって欲しかった。  家永はこれまでの堕天使チェンジの要領で、 (ひ、ひらっ……)  と考えたが、何せ今の相手が堕天使・門脇だ。平野知己を思い浮かべようとしている端から、強引な門脇の手淫が思考を邪魔して、他の誰をも思い浮かべられない。 「ひぃ……っ!」  平野と叫ぼうとしたのに、何やら悲鳴じみた声になった。 「ああ、もう! 俺は気が(みじけ)えんだ!」  そんなの知ってる。 「さっさと出しやがれ!」 「ぃ……っ!?」  門脇の頭が下がった。  家永は嫌な予感しかしなかった。
/207ページ

最初のコメントを投稿しよう!

86人が本棚に入れています
本棚に追加