第3話 菖蒲・4

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第3話 菖蒲・4

 一次審査より一週間を経て行われた二次審査に、彼女……正田彩子が現れた途端、会場は一気にざわついた。 「え? これ、水着審査だよね?」  戸惑いの声が、そこかしこから湧く。  正田彩子は、セパレートタイプのフィットネス水着を着ていた。さらにその上にはラッシュガードを、下には足首まで隠したレギンスを履いている。このままマラソン大会に出ても、なんら問題なさそうな姿だ。  水着といえば水着ではあるが、多くのものの想像しなかったタイプの水着である。 「あの……せめてラッシュガードを脱いでもらえない? これじゃ審査のしようがない」  ミスコン実行委員会の北野が言いにくそうにそれでも会の進行の為に言ったが 「これも水着やん。あんた、水着を差別するん?」  彩子は講義スペースより言い切った。 「いや、それはそうだけど……」  北野の方が完全に押されている。 「一次はスピーチ、二次はスタイルの審査ってのは分かるっちゃけど、そんなん別に布地減らさなくても分かるやん。あんな……」  他にもエントリーした学生の居る中、親指でビキニ姿の美羽を指さした。 「あんな、ほぼ下着状態にならなくてもいいやん。無理無理。うちは人前であんな格好できんって」 「はあ? ちょっと、あなた、人を露出狂みたいに言わないでよねー!」  最近、家永との会話が増えたためか、着火状態がかなり良い美羽である。 (私だって、大奈が用意してくれた水着じゃなけりゃ、こんな布地少ないものなんか絶対に着ないわよー!)  毎年、水着は近藤大奈が用意してくれるのだが、年を追うごとに布地が減ってくるような気がしていた美羽である。  本当は声を大にして言いたい所だが、そうすると審査に水を差すようだし、大奈の気持ちを踏みにじるような気もする。  美羽は、敢えて言わなかった。  会場の方も (余計なこと言って、御前崎さんの布地が増えるような事になったら絶対に嫌だ)  と、正田彩子へかなり厳しい空気となっていた。
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