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焼かれたテトラポッドの上。水がかかってないところはまともに歩けたもんじゃない。
「アチアチッ、ひぃい~~!」
「キオ、腰が抜けてんぞー」
「その程度の熱さで音を上げてんじゃ、男がすたるな」
海からワイワイと俺を馬鹿にする。朝川とヤブ。俺のクラスメイトだ。
俺と違って生まれも育ちもこの島の住人。こいつらはまだ俺をよそ者扱いしてくる。冗談とわかっているが、ムカつく……。
「ウッセエッ! お前らと違って俺は繊細なんだよ!」
テトラポッドに手をついてるようじゃ確かに様にならない。
海水を浴びたテトラポッドに移動し、体を起こす。顔を下へ向けると、透き通る海が見通せる。火照る体が欲するままに、おもいっきり飛んだ。
清涼な海水にすっぽりと体が入り込む。鼻の奥がつんとする感覚に眉根を寄せた。
視界にかかる白い気泡がまだらに視界をぼやかしたが、すぐに美しい海の光景が広がった。
騒々しい俺から離れて、魚がうかがっている。こんな海が実在したのかって疑うほど綺麗だった。天然の水族館とはよく言ったものだと思う。
俺は海面から頭を出し、顔を拭う。
ヤブは焼けた素朴な顔を渋柿みたいにさせている。
「たくっ、近くに飛び込むヤツがあるかよ」
「あれー? ビビっちゃったのかねぇ? ヤブも案外かわいいとこあるんじゃないのぅ~」
「キオにかわいい言われて嬉しいヤツはこの世にいねえな」
「プププ、ヤブが照れてる」
スポーツ刈りの朝川も俺のからかいに加担する。
「はあん⁉ 照れてねえっし!」
ヤブはいきり立って必死になっている。
「こりゃ図星みたいだなぁ」
「うんうん、図星だ」
俺たちは調子づいて追い込みをかけた。顔をうつむかせて体を震わせるヤブ。様子を見ていると、突然顔を弾き上げた。顔を赤くし、歯を向き出したヤブは赤鬼のようだった。
「おんめぇら、許さぁああんっ!」
「やべ、マジで怒ってる⁉」
「朝川! 逃げるぞ!」
「な! お、置いてくなよ~」
「待たんかボッケもんがあああ!」
俺と朝川は狂暴な魚人と化したヤブから逃げるべく、全速力で泳ぎ出した。
Φ Φ Φ Φ
高校進学に合わせ、離島に移り住むことになったのには浅いワケがある。忘れもしない。一年前の四月十二日。家族で久しぶりに夕食を囲んだあの日、いつもよりご機嫌な父ちゃんが俺たちに告げた。
『会社、辞めてきた』
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