5 王配殿下は頭が痛い

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 レンスロットはゴホンと咳払いをする。 「だからといって、嘘をついてはいけません」 「そりゃ、出会って間もないころに僕がとっさについた嘘が発端だけど、まさかその後もピアがずっと僕のことを女性だと思い込み続けるなんて、想像もしなかったんだよ」  ロゼルタは、珊瑚色のドレスに包まれた自分の平らな胸を手のひらで叩いてみせた。 「この体つきや『それって裏声ですよね?』みたいな発声の仕方から、もうほとんどの国民が僕の本当の性別に気づいてるっていうのにさ。ピアはよく気が回るし知的好奇心も旺盛なのに、そういうことにだけは疎すぎるんだ」 「信頼を寄せている君の言うことだから疑わなかったんだろう」  レンスロットは手元の走り書きを呆れ顔で見下ろす。 「それにしても〝王位継承者のしるし〟だなんて、よく思いついたものだ……」  ロゼルタは気まずそうに視線を逸らした。 「……王宮に来たばかりでまだおどおどしてたピアが、初めて着替えを担当してくれたときに『できものでしょうか?』って心配そうに訊いてきたから……」 「その時点で、王家の習わしと男性の体の特徴について話してあげれば良かったじゃないか。側仕えの補佐であるピアには、性別を明かして構わないと言ってあっただろう」 「でも、あのころのピアは男性への苦手意識がかなり強くて……」  父親から冷たく突き放された経験や、修道院の近隣に住む悪童たちの粗暴なふるまいから、八歳のピアは王宮の廊下で男性とすれ違うだけで身を固くしていた。 「同い年の王女に仕えてるんだと信じて『ここで働くことができて、とっても幸せです』って安心しきってるピアに、本当のことなんて打ち明けられなかったんだよ」  王配殿下は再びため息をつく。 「私たちは、ピアが事情をしっかりと理解した上で務めを果たしてくれているのだと思っていたよ」  前任の側仕えだった乳母が「万が一にも本当の性別を洩らしてしまわぬように」と、日常生活でもできるだけロゼルタのことを王女として遇する方針だったため、ピアもそれに倣っているのだと女王夫妻は考えていた。 「家族しかいない場所でも君を完璧に王女扱いするピアの用心深さと口の堅さには、つねづね感心していたんだ」 「ピアの口が堅いのは事実だけどね」 「まあ確かに。長い間〝しるし〟を育成する手伝いをさせられていても、誰にも何も言わなかったんだから……って、育成って何だ!?」  レンスロットは非難の声を上げる。 「どうしてそんなバカなことを始めたんだっ」
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