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6 女王陛下は怒り心頭
きまり悪そうにロゼルタは打ち明けた。
「あるとき、お風呂でそこをピアに洗ってもらってたら、その、初めて出ちゃったんだよ。僕には予備知識があったけど、僕を女の子だと信じ切ってるピアには衝撃を与えたくなくて、嘘を重ねることになったんだ」
王配殿下は訝しそうに片方の眉を上げる。
「そもそも、なぜそんなところまでピアに洗わせてた? ごく小さいころならいざ知らず、前任の乳母だってすでに君自身に任せていただろう」
「それは……ピアが補佐から昇格したときに、当たり前のように丹念に全身を洗ってくれるようになったんで……」
小さな声でロゼルタが「なんだか気持ち良かったから、そのまま」と付け加えると、レンスロットはもう何度目か分からないため息をついた。
「――で、ピアは何も知らないまま、それからずっと君の〝宝玉〟で作られた〝白き賜〟の処理をさせられてきたわけだ」
自分がでっちあげた用語を父親に使われるという辱めを、ロゼルタは赤面しながら甘んじて耐えた。
「そればかりか、君は無垢な乙女の体にまで手を出し、淫らな嫌がらせを繰り返し」
「い、嫌がってはいなかった……と思う」
特大のため息が室内に響く。
「――ロゼルト」
重々しい口調で、父は息子の本当の名前を呼んだ。
「己の罪深さをきちんと理解できていないようだな」
日ごろは良き理解者である父親から厳しい言葉をかけられ、ロゼルトはきゅっと唇を噛む。
「し……真実を伝えることができなくて、ピアには申し訳なかったと思う。だけど、そもそも『君主の直系の男子は、成人するまで公には真の性別を明かさず、女子と同様に〝王女〟として振る舞う』なんていう王家の古臭いしきたりが悪いんだ」
ロゼルトの胸中には、積年の憤懣がふつふつと湧き上がってきた。
「先代と当代、二代続けて本物の女性が王位を継いだせいで、大半の国民はそんな慣習があることなんかすーっかり忘れてて、近年僕が男っぽくなってきてからやっと『へえー、そんな習わしがあったんだ』『じゃあ、ロゼルタさまはいずれ女王さまじゃなくて王さまになるんだねー』みたいに、のんびり周知が進んでいったらしいじゃないか。こんなこと、本当に意味があるの!?」
「昔は男児が幼いうちに命を落とすことが多かったから、無事に大人になって欲しいという願いを込めて、このようなしきたりが――」
「今さら由来を懇切丁寧に説明してもらわなくても、よく知ってるよっ!」
ロゼルトは苛立ちを爆発させる。
「好んでこういう格好がしたいとか、せめて小さいうちだけとかならまだしも、こんな歳にもなって好きでもないフワフワヒラヒラした衣装を着せられる僕の身にもなってよ! もうおおかたの人が男だって気づいてるのに、十九の誕生日までは皆でそらぞらしく『王女さま』呼ばわりして女扱いを続けるなんて、くっだらない茶番だって言ってんのっ!」
「――ずいぶんと威勢がいいじゃない、ロゼ」
氷水でも浴びせかけるかのように、部屋の出入り口のほうからひんやりとした女性の声が響いてきた。
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