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7 塔の上の伯爵令嬢
窓覆いの隙間から射し込んでくる細い光が、浅い眠りの中にいたピアを目覚めさせた。
腫れぼったくなったまぶたを擦り、ピアは寝台から降りて窓辺へと向かう。
覆いを開いたとたん、眼前に混じりけのない真っ青な空が広がった。
眩しさに眼をしばたたかせ、とぼとぼと寝台に戻って力なく腰掛ける。
「やっぱり、夢じゃないのね……」
城の西端にそびえる塔の上階で寝泊まりするようになって一週間。ピアは起床するたびに同じ言葉を繰り返していた。
塔というと〝幽閉〟などという恐ろしげな言葉が浮かんできたりもするが、ここは女王陛下の妹姫がかつてお気に入りの居室として使っていたところで、姫が遠方に嫁いでいった後もきちんと手入れがなされ、時には賓客の宿泊に使用されるほど快適な空間となっている。
長年ピアが過ごしていた側仕えの部屋よりもずいぶん広くて造りも贅沢だが、そんなことで心が晴れるはずもなかった。
ふと、枕元に積まれた本の山がピアの視界に飛び込む。ハシバミ色の瞳には新たな涙がじわりと湧いてきた。
「う……」
部屋に案内された日に女王から渡されたこれらの本は、王室の子女の教育用に作られたのだという。
〝君主の直系の男子は、成人するまで公には真の性別を明かさず、女子と同様に『王女』として振る舞う〟という文言も明記されている『王家のしきたり』以外の本は、「薄い冊子から順番に少しずつ目を通してね」と女王から忠告を受けていた。
しかし、ピアはそれに従うことはできなかった。
『だんじょのからだ』『命はどこからくるのかな?』『思春期のあなたの体に起こること』『婚前交渉について』『結婚―閨の作法―基礎編』『結婚―閨の作法―応用編』――次々と知る驚愕の新事実にページをめくる手が止められず、眠ることも忘れて一気に読みきってしまったのだ。
「ああ……」
溢れてきた涙を指で拭い、ピアは呟く。
「一刻も早く、遠いところへ行ってしまいたい……」
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