7 塔の上の伯爵令嬢

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 ロゼルトから嘘をつかれていたことを知り、ただちに職を辞して王宮を去りたいと女王に願い出たピアだったが、寄る辺のない境遇のため簡単に行き先は決まらなかった。  ほとんど音信のなかった実家からは受け容れを断られ、幼いころに預けられていた陰鬱な修道院は不祥事が明るみになったとのことですでに存在せず、王宮に呼び寄せてくれた優しい叔母だけが頼みの綱だったが、今は大使を務める夫に随行して外国暮らしをしているため、まずは手紙を送って身の振り方を相談しなくてはならなかった。  何日もかけて運ばれてくる叔母からの返事を待ち、それが届いたらまた手紙を書いて……というじれったいやりとりをこれから幾度となく繰り返さなくてはならないと思うと、ピアは気が遠くなる。  自活したい気持ちは強いが、伯爵令嬢という立場がかえって足枷となり、王宮以外での働き口など簡単に見つかりそうにないのが現実だった。  女王からは「あなたにふさわしい居場所を私も探してみるから、落ち着き先が決まるまでは遠慮なくここを使ってね。ロゼには気づかれないよう細心の注意を払うわ」と言われているが、王族が暮らすような豪奢な部屋で何もせずに日々を過ごしていることもピアには心苦しかった。  ロゼルトに見つかるわけにはいかないので外に出ることはできないが、常に上質の衣類をまとい、続き間に置かれた浴槽には毎日温かいお湯が運び込まれ、食事も上げ膳据え膳で――。 「あっ……」  身支度を整えておかなくてはと、ピアは慌てて立ち上がる。  急いで顔を洗い、ふんだんにひだ飾りがつけられた寝間着を脱ぎ、天井までそびえている大きな収納に駆け寄って扉を開けると、色とりどりの美しい衣装がずらりと現れた。  比較的動きやすそうなドレスを選んで手早く身に着け、髪の毛を軽く結ったところで、扉を叩く音がした。 「ピアさま」  間に合った、とピアはほっとする。 「おはようございます。朝食のお時間ですよ」  扉を開けると、端正な顔立ちをした黒髪の若い騎士が、布が掛けられた大きな盆を手にして立っていた。
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