8 ひとりぼっちの晴れの日

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   ◇  ◇  ◇  澄んだ空に華やかな音楽が鳴り渡る。  大きな喝采と激しい(あられ)のような拍手が、西の塔にまで響いてきた。 「……今、戴冠されたのね……」  ピアは寝台に腰掛けたままぽつりと呟く。  今日は快晴なので、ロゼルトが女王から王太子の冠を授けられる儀式は、予定通り屋外で行われたはずだ。 「この後、お披露目のために馬車で城下町を巡るのよね……」  行事の段取りは、すっかり頭に入っている。  裏方のピアにとっても、今日は一世一代の晴れがましい日となるはずだった。 「それから、お衣装は……」  先週の時点ではまだ出来上がってきていなかったが、もちろん間に合ったのだろう。  ロゼルトは生地選びのときだけピアを立ち会わせてあれこれ意見を求めてきたが、それ以降は「当日驚かせたいから」と、仕立て屋が訪れるたびにピアを閉め出すようになってしまった。 「ひそかに男性用のものを作ってたのね……」  彼の両親と乳母以外でロゼルトの真の性別を知らされていたのは、宰相と侍医、騎士団長と稽古相手のアルド、それから御用達の仕立て屋だけだったと、ピアはあの日女王から聞かされた。 「わたしにはぎりぎりまで隠しておきたかったんだわ……」  いつも誰よりもそばにいたのに――。  叔母が王宮を去るときに言い残していった言葉が、今さらながらピアの脳裏によみがえる。 『ロゼルタさまは王太子さまになられるお方なんだから、しっかりね』  この国では、正式に立太子した王位継承者のことを男性なら王太子、女性なら王太女と呼ぶが、よく似た響きなのでピアは単に聞き間違えたのだと思っていた。 「あんな一言だけじゃ、わからなかったわ……」  ピアの膝の上に、ぽたりと涙が落ちる。  祝福の歓声を遠くに聴きながらピアはひとりで泣き続け、やがて疲れ果てて寝台に倒れ込むようにして眠ってしまった。
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