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10 ごめんね、ピア
夢ではないことがわかったピアは、勢いよく跳ね起きる。
耳に少しかかるくらいの長さの輝く金の髪、夜明け前の空のような藍色の瞳、引き締まった長身を引き立てる豪華で洗練された装い――。
あの絵物語の王子さまのような、いやそれ以上に麗しい若者が、涼やかな笑みを浮かべて目の前に佇んでいた。
「驚いた?」
少し面映ゆそうに肩をすくめ、ロゼルトは自分の姿を見回す。
「ピアが薦めてくれたから生地は真っ青じゃなくて水色にしたんだけど、衣装の形や装飾品は、前に君が素敵だって言ってたあの絵物語の王子さまのものに似せて作ってもらったんだ」
「ロ……ロゼルタさま……」
「あっ、今日から本名の〝ロゼルト〟を堂々と名乗れるようになったんで、ピアにもそう呼んで欲しいな」
笑顔の王子とは対照的に、ピアの表情は硬かった。
「どうして……こちらに?」
「いくら訊ねても母上たちは頑として君の居場所を教えてくれなかったから、突き止めるまでに時間がかかっちゃったんだけど……」
裏声を出すのをやめたその声は、明らかに若い男性のものだ。
「昨日の朝、窓の外をぼんやりと眺めてたら、君と仲のいい赤い髪の小間使いの……マティナだったかな? 彼女が布をかぶせた大きなお盆を持って西の塔のほうへ歩いていくのが見えたんだ。あそこは今回の式典の賓客は泊まってないはずなのに、おかしいなと思って」
直接食事を渡してくれるのは警護担当の騎士なので、塔まで運んでくれているのがマティナだったことをピアは初めて知った。持ち場に同僚がいないピアにとって、顔を合わせれば気さくに声をかけてくれる少し年上の彼女は、王宮で働く人々の中で一番親しい人物だ。
「探りを入れてみたら、多忙だからと最近あまり顔を見せなかったアルドが西の塔に詰めてるっていうのがわかって、君がここにいるって確信したんだ。用心深い母上なら必ず優秀な護衛をつけるだろうしね。気がついた時点ですぐに駆けつけたかったんだけど、まずは本来の姿になってからだと自分に言い聞かせて、今日の行事をすべて済ませてから来たんだよ」
ロゼルトは優しくピアの手を取り、自分の両手で包み込んだ。
「ごめんね、ピア……」
「ロゼル…………トさま」
ピアから初めて本名を呼ばれたロゼルトは、少し瞳を潤ませる。
「やっと、本当の僕として君と向き合えた……」
美しい唇がピアの指に近づいてこようとしたそのとき――。
「やっ……!」
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