10  ごめんね、ピア

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 毛虫でも振り払うような勢いで、ピアはロゼルトの手を振りほどいた。 「ピ、ピア?」 「な……何を考えていらっしゃるんですかっ!」  ぽかんとしたロゼルトに、厳しい声が浴びせかけられる。 「あっ、あなたは、どうしてわたしがお暇をいただこうとしたのか、おわかりではないんですか……!?」  ロゼルトはしょんぼりと眉を下げ、「――わかってるよ」と答えた。 「ずっと君に僕の性別を偽り続けてきたからだよね……。本当にごめん。王家のくだらないしきたりのせいで、ややこしいことになっちゃっ……」 「そうじゃないっ!」  ピアの言葉から敬語が抜け落ちる。 「しきたりのせいなんかじゃない……!」  見る見るうちに、ピアのハシバミ色の瞳は厚い涙の膜で覆われていった。 「あなたから深く信頼していただいていると思っていたのが、わたしの大きな勘違いだとわかったから……!」 「ご、誤解だよ!」  ロゼルトは慌てて否定する。 「僕はいつも君のことを誰よりも信頼して――」 「だったら、どうして嘘をつき続けたんです!?」 「そ、それは……」 「欲望にまかせて、手近にいる物知らずな娘を慰み者にしたかったからでしょうっ!?」  大きな衝撃を受けたように、ロゼルトは愕然と目を(みは)った。 「な……慰み者……?」 「そうでしょう?『この重要な秘儀を任せられるのはピアだけなのよ』なんて、わたしの自尊心をくすぐって……」  ピアの眼のふちから涙がどっと溢れ出す。  最後の一線は越えていなかったとはいえ、二人は『結婚―閨の作法―応用編』に載っているようなことまで何度も繰り返してきた。大きな偽りはそのままに、真実の愛を誓い合った夫婦がするようなことを。 「ち、違うよ、僕は決してそんなつもりで」 「――出ていってください」 「えっ」 「どうやって入り込んだのか知りませんが、今すぐここから出てってくださいっ!」
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