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11 王子さま、最低ですっ!
「ま、待って、ピア。僕は今夜とても大切な話があってここに来たんだよ」
「わたしは何も話したくありませんっ!」
取り付く島もないピアにおろおろとしていたロゼルトだったが、ふと腑に落ちたかのように「ああ……」と、いたわるような眼差しになった。
「そろそろ月のものが来るから、気持ちが乱れやすくなってるんだね」
「……は?」
「ほら、始まる前あたりはときどき昔の夢を見て泣いちゃったり、起きてからもしばらく落ち込んだままだったりするでしょう?」
濡れた目を見開いて固まったピアの脳裏に、初めて自身に月のものが訪れたときのことがよみがえる。
予備知識がなかった彼女はひどく驚き、真っ先にロゼルタ王女に相談した。
王女は一瞬戸惑ったかのようにも見えたが、すぐに優しく微笑んで「ちっとも恐れることじゃないわ」と簡単な説明をしてくれて、「〝王位継承者のしるし〟に栄養が注がれるべき時期の私には来ていないから」と、少し年嵩のマティナから対処法を教わってくるように勧めてくれた。
その後も折に触れ、女同士の気安さからピアは自分の体のことについて王女に話してきた。……話してきてしまった。
「先々週くらいが特に濡れやすかったから、きっともうすぐ始ま――」
「……最低……」
「え?」
打ちたての鉄のように真っ赤になって、ピアはロゼルトを睨みつける。
「二度と会いたくありませんっ!」
「ピ、ピア、落ち着いて……」
「触らないでッ!」
なだめようと伸びてきたロゼルトの手を、ピアは肩で邪険に振り払う。
どうせ王女の側仕えでいることだけが生きがいだったのだ。不敬罪に問われて牢に入れられても構わない。
「嘘つきっ! 卑怯者っ! 変態っ! 大っ嫌いっっ……!」
生まれてから一度も口にしたことのないような罵り言葉をピアが迸らせたとき、「失礼いたしますっ!」という切迫した声と共に部屋の扉が勢いよく開いた。
「王子っ! ダメじゃないですか!」
黒髪の騎士アルドが駆け込んできて、魂が抜けたようになっているロゼルトを後ろから羽交い締めにする。
「交代に来たらレントが気絶してるから何ごとかと思ったら……。自国の騎士を倒すために厳しい訓練を重ねて強くなったわけじゃないでしょう?」
アルドは「ほらっ、行きますよ」と呆然としたままの王子をずるずると引きずるようにして出入口まで連れて行った。
「――ピアさま、警備の不行き届き、心よりお詫び申し上げます!」
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