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◇ ◇ ◇
大きなため息が王子の私室に響く。
「詳しいことまでは知らされていませんでしたけど……聞けば聞くほど呆れた話っすね」
王子から事情を打ち明けられたアルドは、率直な感想を述べた。
「父上からも同じことを言われたよ……」
椅子に腰掛けたロゼルトは、力なく肩を落とす。
「でしょうね。控えめに言っても最低ですよ」
幼なじみからもきっぱりと断じられ、ロゼルトはポロポロと涙をこぼした。
「だよね……僕は、嘘つきで卑怯者の変態王子だもんね……。でも、ずっとずっとピアのことが大好きだったんだ……」
「改めて言われなくても、よく知ってます」
ロゼルトの本当の性別を知る同世代の人物はアルドしかいなかったこともあって、彼は長きにわたって「ピアは可愛い」「ピアは優しい」「ピアは天使」などとさんざん聞かされてきた。
「しかしまさか、そんな卑劣なやり口で手を出していたとは」
アルドは「〝王位継承者のしるし〟って何だよ……」と小声で呟き、苦笑をごまかすように手の甲で口元を押さえた。
「――我ながらバカな嘘をついたと思うよ」
ピアが哀しそうに叫んでいたのをロゼルトは思い出す。
『あなたから深く信頼していただいていると思っていたのが、わたしの大きな勘違いだとわかったから……!』
どうしたら誤解が解けるのだろうと頭を抱えたロゼルトに、アルドは「ほんと残念なことになりましたね」と声をかけた。
「ご両親も、王子の恋が成就するのをかなり本気で望んでおられたのに」
「……え?」
「前に陛下たちがおっしゃってましたよ。礼儀作法や社交術、各国の情勢や歴史、言語に至るまで、将来妃殿下になられたときに困ることがないよう、ピアさまには王子の進講にできるだけ同席してもらってあらゆる教養が身につくよう取り計らっていらっしゃるのだと」
「……っ」
当の二人はそんな意図など知らされず、「伯爵家で教育を受けられないピアにとってもいい機会だから」とだけ言われていた。
「まあ、学ばれたことは決してピアさまの邪魔にはならないでしょう。ずっと王子が囲い込むようにしてたんで今回初めて近くで接しましたけど、あの愛らしい容姿と謙虚な態度に加えて豊富な知識もあるんですから、求婚者なんて引く手あまたでしょうし」
「ちょ、ちょっとアルド!?」
「はい?」
「なんでピアがどこかよその男に嫁ぐみたいな話になってんの!? ピアは僕の――」
アルドは呆れ顔でロゼルトを見た。
「何をどうしたら、この期に及んで王子が彼女と結婚できるなんて思えるんです?」
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