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「はい、西の塔を警護している騎士からの報告によりますと、こちらも相変わらず沈み込んでおられるようで……」
「かわいそうに。いい落ち着き先を早く見つけてあげないと」
「食も細く、少し痩せられたそうです」
レンスロットも気づかわしげに質問する。
「父親のバレンテ伯爵は何と言ってきてるんだ?」
リエーレは顔を曇らせた。
ピア本人が実家に受け容れを打診しても色よい返事がなかったため、宰相からも口添えをしてみたのだ。
「まあ、有り体に申しますと『今さら戻ってこられても困る』と。何でもいいので王宮で別の仕事を与えてやって欲しいとのことでした」
「あんのクソ親父……」
フォルタはぎりりと歯を食いしばる。
「幼いピアを修道院に放り込んで以来、徹底して我関せずを貫いてるわね……。先代のバレンテ伯爵が国の功労者だったからあまり厳しいことは言わずにきたけど、できることなら今すぐ爵位を剥奪してやりたいくらいよ」
「ピアさまのことよりも、後妻の連れ子――ということになっていますが、どうやら再婚前から不貞関係にあったため血の繋がった実子らしいのですが、ピアさまから数日遅れで生まれた次女のことばかり売り込んできまして……」
宰相は不愉快そうに灰色の眉をひそめた。
「やれ『私どもの次女を後任の側仕えにいかがでしょう?』だの、『次女は来月十九になるのですが、社交界に出たらたちまち注目を集めてしまいそうな自慢の娘でして!』だの……」
いらいらとしながら報告を聞いていた女王は、はっと何かに気づいたかのような表情になり「そうだわ!」と声を弾ませた。
「ピアだってもうすぐ成年を迎えるんだから、社交界に出ればいいじゃない! 前はロゼとの婚約が調ってからお披露目するつもりでいたんだけど」
「さようですな。しかし、おそらくバレンテ伯爵の頭の中にはピアさまのお支度のことなど……」
「私たちが後ろ盾になるわっ!」
女王が嬉しそうに宣言すると、王配も「なるほど、いい考えだね」と口元をほころばせる。
「幼いころから長きにわたり王家に尽くしてきてくれたピアの真心に報いるときだ」
「そうよ。ピアこそどこに出しても恥ずかしくない自慢の娘ですもの! きっと、たくさんの貴公子たちから見初められるわ」
フォルタは藍色の瞳をきらきらと輝かせた。
「薄情な実家なんかに頼らなくても、とびきり素晴らしい結婚相手を見つけて、一緒に末永く幸せに暮らせばいいのよ!」
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