13 ロゼ、お疲れさま

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    ◇  ◇  ◇ 「というわけで、あの子はもうダソーロ城に向かわせたから、あなたは社交界に華々しくお目見えすることだけを考えていればいいのよ」  次の日、西の塔まで足を運んだ女王は笑顔でピアにそう告げた。 「わ……わたしが、社交界だなんて……」  ピアは困惑の色を浮かべる。  ロゼルトの部屋に「大変ですっ!」と駆け込んだあの日までは、いつまでも王女の側仕えでいることが唯一の願いだった彼女にとって、想像すらしたことのない話だった。 「あら、伯爵家の令嬢が成人を迎えてお披露目されないほうがおかしいわ。作法は申し分ないし、ダンスだって上手に踊れるでしょう?」 「ひ、ひととおりは……」  長年、ピアは王女のダンスの練習相手を務めてきた。  いつも男性役を買って出るのは王女で、「これじゃあ、ロゼルタさまは男性のほうの踊りばかり覚えてしまわれるんじゃないですか?」とピアが気を揉むと、王女は「大丈夫。私は器用だから」と優しく笑っていた。  踊りの最中に息がぴったり合うと、空気に乗ったかのように体がふわりと軽くなり、言葉にしなくても互いに同じ感覚を味わっていることが伝わってきて、どちらからともなく笑みがこぼれたものだった。  幸せだった時間をつい思い出してしまったピアは、慌てて消し去ろうと首を横に振る。  持参してきた服地の見本帳を覗き込んでいた女王はそんなピアの様子には気づかず、うきうきと声を弾ませた。 「さあ、涙がちに過ごす時間はもうおしまいよ! うんとおしゃれして、たくさんの素敵な方たちとの出会いを楽しんでちょうだい!」
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