14 馬車は容赦なく南へと向かう

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「あらゆる面で優れた貴公子から誠意を込めて口説かれたら分かりませんよ? きっと、多くの男性がピアさまに好意を寄せるでしょうしね」  絶望したように眉を下げてしばらく固まっていたロゼルトは、ふと何かに引っかかったように表情を変え、幼なじみを不審そうにじっとりと見た。 「ねえ、アルド……」 「はい」 「まさかとは思うけど、アルドもピアのことが好きになっちゃったんじゃないよね?」 「は?」  ぽかんとしたアルドに、ロゼルトはぐっと顔を近づける。 「前は、僕がいくらピアのことを熱く語っても『あーはいはい良かったっすねー』みたいにまったく関心がなさそうだったのに、西の塔を警護してからは、ピアへの評価がめちゃくちゃ高くなってない?」 「それは……、実際にご本人と接してみて想像以上に素晴らしい方だと分かったからであって、恋心を抱いたわけじゃないですよ」 「ほんと?」 「ええ」 「本っ当ーに、ほんとう?」  アルドは心底面倒くさそうな表情になった。 「大丈夫ですよ。俺には他に大切な人がいるんで」 「えっ」  ロゼルトは目を丸くする。長いつき合いだが、アルドのそういった話を耳にしたのは初めてだった。 「ア、アルド、恋人ができたの?」  ロゼルトより一年ほど先に生まれた幼なじみは、少し迷ってからあまり面白くなさそうに打ち明けた。 「年上の未亡人に手ほどきしてもらおうとしたら、こっちが本気になっちまって。ちゃんとした恋人になりたくて、ジタバタしてるところです」 「えーっ!?」  ロゼルトは驚きの声を上げる。 「き、君の母上は知ってるの?」  ノーヴィエ侯爵夫人が末の息子のアルドを人並み外れて溺愛しているのは有名な話だ。アルドが早くから騎士を志したのも、過保護で過干渉な母親とできるだけ距離を置きたかったからだという。 「んなわけないじゃないですか。バレたら大ごとですよ」  息子のささいな交友関係にすら神経を尖らせているあの夫人が、おとなしく許すはずがないだろう。 「君も苦労してるんだねえ……」  ロゼルトは、いたわるような眼差しでアルドを見た。 「旅の道のりはまだまだ長いんだし、僕には話を聞くくらいしかできないけど、よかったら思う存分切ない胸の内を吐き出して?」
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