2 女王陛下は知ってしまった

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 正義の証人のように、ピアはきっぱりと否定した。 「ロゼルタさまのご立派なしるしに比べたら、全く取るに足りないものでした! やはり、正統な王位継承者はロゼルタさまに違いありません!」 「……そう」  少しほっとしたようなロゼルタを見て、ピアは勢いづく。 「及ばずながら、わたしも日夜ご協力さしあげて大きく逞しく威風堂々としたしるしに成長されたのですから、どうぞ揺るぎない自信をお持ちください!」  ピアが力を込めて叫んだ次の瞬間、突然、衣装室につながる扉が静かに開いた。 「……ロゼ……あなた……」  ふたりがそちらに目を向けると、ロゼルタの母である女王フォルタが困惑したように立っていた。 「母上っ!?」 「女王陛下……!」  どこから聞かれていたのだろうと青ざめながら、ピアは急いでスカートをつまんでお辞儀をする。ロゼルタの他に王位継承者のしるしを持つ者が存在するなど、女王にとってもゆゆしき事態だろう。 「――ロゼ」  険しい表情を浮かべた女王は、〝しるし〟を持つ者を目撃したピアのほうではなく、一人娘のロゼルタの前につかつかと歩み寄った。 「今のはどういうことなの? 説明して」 「え、えっと……」  気まずそうに言いよどんだ我が子を、女王は藍色の眼で睨みつける。 「『くちづけもしていない』んじゃなかったかしら?」 「く、くちづけは、してない」 「『彼女の貞操は保証する』と」 「そ、それも保証する」  ロゼルタが「……一応」と付け加えると、フォルタは呆れたように額に手を当て、咎めるような声を上げた。 「あなたって子は……!」  意味が掴めないままおろおろと母娘(おやこ)のやり取りを見ていたピアは、不意に女王から視線を向けられ体をこわばらせる。 「あ……」 「ああ、ピア……」  鋭かったフォルタの眼差しは、たちまち憐れみに満ちたものに変わった。 「怯えなくていいのよ、きっとあなたは何も悪くないから。――でも、少しだけ私に話を聞かせてちょうだいね?」
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