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ピアの母親が所有していた品々の大半は継母が引き継いだが、宝石類以外はほとんど処分されてしまった。
捨てるくらいなら譲り受けたいとピアから願い出たものもあったが、継母からは「このガラクタに何の価値があるというの?」と冷たく突っぱねられた。
大切に保管されていた母の花嫁衣裳が切り刻まれてホコリ取りに使われていたときは父親にも物申したが、「取っておいても仕方のないものだろう。有効に活用しただけだ」と、にべもなかった。
そのやり取りをニヤニヤと眺めていた同い年の〝妹〟カーラは、後からピアの部屋に来て、これ見よがしに亡き母のドレスの切れ端を床に落とし、「ほら、くつのどろおとしにもなるわよ?」と足で踏みつけてみせた。
ピアが慌てて屈み込んで布を引っ張ったらカーラが転倒して怪我をしてしまい、日ごろはピアに無関心で自ら話し掛けることのない父が、そのときだけは「次はないと思え!」と激しい怒りをぶつけてきた。
優しい色合いの水盤の縁をピアは静かに撫で、懐かしそうに目を細める。
納戸にしまわれていたため亡き母の所有物だったとは知られず、処分を免れたのだろう。
清らかな水に浮かべられた色とりどりの野花を眺めていると、楽しかった思い出がよみがえってくる。
「あっ……?」
ピアは小さく声を漏らし、水盤の中をじっと見た。
「……クンイソウ、ウスベニアオイ、これもウスベニアオイ……オトギリソウ、シズクソウ、メガミソウ……、こっちはリンゴソウ……」
名前を呟きながら、ひとつひとつの花を指差していく。
「のばらがないわ」
水盤には、六種類の花しか浮かべられていなかった。
七種すべてが揃わなくても良いとされていることは知っているが、心当たりがあったピアは裏口へと足を急がせる。
日が沈みつつある外に出て 記憶をたどって薬草園の奥の緑の葉が生い茂っている場所を目指した。
「さいてる……!」
野ばらの低木は今年も「ピアのほっぺの色みたいね」と母が言ってくれた淡い紅色の花をたくさん付けていた。
ピアは前年と同じように、花冠を潰さないよう気をつけながらいくつか摘み取る。
スカートをつまんで作ったくぼみに載せて朝食室まで運び、まずはひとつを水盤にそっと浮かべてみた。
優しい薄紅色が加わるといっそう彩りが豊かになり、ピアは満足そうに微笑む。
残りの野ばらも配置を考えながら慎重に水に放っていると、背後から咎めるような子供の声が響いてきた。
「なにをしてるのっ!?」
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