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不意に階段の下のほうから男性の声がして、レントは思わず身構えた。
「お疲れ、レント」
上ってきた人物を見て、レントは目を丸くする。
「アルド……!?」
休暇中のはずの同僚は、なぜかレントと同じ深い青の騎士服に身を包んでいた。
「悪いな。俺が長い休みをもらったせいで、ずいぶん皺寄せが来てるだろ」
「い、いや、貴族の人づきあいってのもいろいろと大変そうだしな……って、どうしてここに?」
「ああ」
アルドは爽やかに微笑む。
「年に一度の催しのときまでお前に任せきりってのも悪いから、俺が朝まで代わろうと思って」
「えっ……」
「一時的に任務に復帰することは、上にも報告済みだから」
「で、でも……お前だって祭りに行きたいんじゃ……」
「毎日いやってほど人と会ってるせいか、あまり気乗りしないんだ」
肩をすくめてアルドがそう言うと、レントはパッと顔を輝かせた。
「ほ、本当にいいのかっ?」
「もちろん」
「アルド……、お前ってすっごくいい奴だなあ……!」
しみじみとレントは言う。
「モテるのもわかるよ。顔も性格も家柄も良くて、さらに仲間思いで――」
アルドは「そんなに褒めちぎらなくてもいいから」と困ったように笑った。
「早く行って楽しんで来いよ」
「お、おう! 恩に着るぜ!」
足取り軽やかに階段を下りていく同僚を見送ると、ふうとアルドは息を吐いた。
程なくして、誰かがひたひたと階段を上ってくる音がする。
「レントが出ていったのを見たよ。アルド、ありがとう」
姿を現したロゼルトが声をひそめて礼を言うと、アルドは複雑そうな顔になった。
「抜け出せてしまったんですね……」
「うん。母上の挨拶の途中で、なぜか会場にニワトリが何羽も乱入してきたんで、皆で大騒ぎして捕まえてるところだよ」
アルドは再びため息をつくと、囁き声ながらもきつく釘を刺した。
「いいですか? くれぐれも暴走禁止ですからね。何かおかしなことがあったら、俺がすぐに踏み込みますから」
「わかってる」
ロゼルトも真面目な面持ちで頷く。
「……じゃあ」
アルドは、ピアの部屋の扉を軽く叩いた。
「――ピアさま、夜遅くに失礼いたします」
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