31 王子は約束を果たすべく

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 不意に階段の下のほうから男性の声がして、レントは思わず身構えた。 「お疲れ、レント」  上ってきた人物を見て、レントは目を丸くする。 「アルド……!?」  休暇中のはずの同僚は、なぜかレントと同じ深い青の騎士服に身を包んでいた。 「悪いな。俺が長い休みをもらったせいで、ずいぶん皺寄せが来てるだろ」 「い、いや、貴族の人づきあいってのもいろいろと大変そうだしな……って、どうしてここに?」 「ああ」  アルドは爽やかに微笑む。 「年に一度の催しのときまでお前に任せきりってのも悪いから、俺が朝まで代わろうと思って」 「えっ……」 「一時的に任務に復帰することは、上にも報告済みだから」 「で、でも……お前だって祭りに行きたいんじゃ……」 「毎日いやってほど人と会ってるせいか、あまり気乗りしないんだ」  肩をすくめてアルドがそう言うと、レントはパッと顔を輝かせた。 「ほ、本当にいいのかっ?」 「もちろん」 「アルド……、お前ってすっごくいい奴だなあ……!」  しみじみとレントは言う。 「モテるのもわかるよ。顔も性格も家柄も良くて、さらに仲間思いで――」  アルドは「そんなに褒めちぎらなくてもいいから」と困ったように笑った。 「早く行って楽しんで来いよ」 「お、おう! 恩に着るぜ!」  足取り軽やかに階段を下りていく同僚を見送ると、ふうとアルドは息を吐いた。  程なくして、誰かがひたひたと階段を上ってくる音がする。 「レントが出ていったのを見たよ。アルド、ありがとう」  姿を現したロゼルトが声をひそめて礼を言うと、アルドは複雑そうな顔になった。 「抜け出せてしまったんですね……」 「うん。母上の挨拶の途中で、会場にニワトリが何羽も乱入してきたんで、皆で大騒ぎして捕まえてるところだよ」  アルドは再びため息をつくと、囁き声ながらもきつく釘を刺した。 「いいですか? くれぐれも暴走禁止ですからね。何かおかしなことがあったら、俺がすぐに踏み込みますから」 「わかってる」  ロゼルトも真面目な面持ちで頷く。 「……じゃあ」  アルドは、ピアの部屋の扉を軽く叩いた。 「――ピアさま、夜遅くに失礼いたします」
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