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32 どうしてこんなことに? 前
どうしてこんなことになってしまったのか、ピアにはさっぱりわからなかった。
寝間着に肩掛けを羽織った姿のピアは、なぜか今、ロゼルトとふたりきりで部屋の中にいる。
廊下から呼ばれて扉を開けたら、職務停止中のはずのアルドが騎士の制服姿で立っていて、そこでまず虚を衝かれた。
さらにその後ろからロゼルトが現れたことで、しばらく固まってしまったのが良くなかったのだろうか。
アルドが申し訳なさそうに「今夜ばかりは特別なのだと王子から説得されて協力することにしましたが、もし少しでも身の危険を感じられるようなことがありましたら、私を大声でお呼びください。速やかに排除しますので」と喋っているのを呆然と眺めているうちに、気がついたらロゼルトと一緒に扉の内側にいた。
「ピア……」
藍色の瞳がおずおずとピアを見下ろす。
ピアはハッと我に返り、脱兎のごとく部屋の奥へと駆け込んだ。
「なっ、何をしにいらしたんですかっ!?」
寝台の向こう側に回り込み、ピアは詰問調で訊ねる。
エスト侯爵邸のテラスで涙ながらにロゼルトを罵ったのは、つい昨晩のことだ。
「それに、その格好……」
艶やかな長い金髪に、深みのある葡萄色のドレス。ロゼルトは〝王女ロゼルタ〟の姿になっていた。
「えっと……こっちのほうがまだましかも知れないと思って……」
近くに置いてある椅子に手を伸ばそうとロゼルトが半歩踏み出すと、ピアは緊張を走らせ全身をこわばらせる。
「ああ……、勝手に近づいたりしないから安心して」
ロゼルトは寂しそうに微笑み、引き寄せた椅子にすとんと腰を下ろした。
王子としての生活が板についてきたのか、ドレスなのに膝を揃えることは忘れているようだった。
「――昨夜はごめん」
神妙に謝られ、どう返事して良いものかとピアは迷う。
あれからずっとロゼルトのことが頭から離れず、一人で怒ったり涙ぐんだりしていた。
「謝罪のために、こちらに……?」
「それもあるけど――」
突然、ロゼルトは鋭い目つきで空を睨む。
「え……?」
次の瞬間ロゼルトは勢いよく立ち上がり、ピアのほうにまっしぐらに突進してきた。
「なっ……!?」
ロゼルトはついさっき「勝手に近づいたりしないから安心して」と言ったばかりだ。
あまりに素早い動作だったため、ドレスの裾を蹴り上げるようにして寝台に飛び乗ったロゼルトがすぐ目の前まで迫ってきても、ピアは身動きが取れなかった。
真剣な顔をしたロゼルトの両手が、ピアの顔を挟むように伸びてくる。
「やっ……」
咄嗟に目を閉じて身をすくめると、大きな手のひらがピアの耳をふわりと覆った。
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