14人が本棚に入れています
本棚に追加
「ぜ、全面的に悪いのは僕だよ?」
昨晩のロゼルトの言動がよみがえったのか、ピアは眉をひそめて「まあ確かに……」と言う。
「招待されていない舞踏会に潜り込み、珍妙なふるまいで別人になりすまそうとしたり」
「うっ」
「人さらいのように強引にわたしをテラスまで連れて行ったり」
「ぐっ」
「無神経にいやらしい発言をしたりと」
「ひっ」
「正直、いいところなんてひとつもありませんでしたけど……」
ピアはロゼルトをじっと見た。
「やっぱり、わたしも言い過ぎました」
ロゼルトから長いあいだ嘘をつかれていたと知ったときから、ピアの胸の中は悲しさと腹立たしさの嵐が吹き荒れ、別の視点からものを見る余裕などまるでなかった。
でも今夜、それが少し変わったような気がする。
「いくらしきたりとはいえ、小さいころから大勢の人たちの前で本来の性別を偽り続けるのは、想像以上のご苦労があったことでしょう」
「えっ……」
「だからこそ、おそばにいるわたしには真実を知らせていただき、私生活ではありのままで心安らかに過ごして欲しかったと思いますが……」
「ピ、ピアといるときはいつも安らいでたよ」
ピアはふわりと目を細める。
「初めてお会いしたときからずっと優しくしてくださったことや、長い間傍らで拝見してきた並外れた努力まで、すべてを否定するような言い方をしてしまい、申し訳ありませんでした」
「ピア……」
ピアの心の傷がいつの間にか薄らいでいたのは、修道院を出てから周りで支えてくれた人たちのお陰なのだろう。
中でもロゼルトは、いつも一番近いところで温かく見守っていてくれた。
「今夜は、来てくださってありがとうございました……」
ピアは柔らかく微笑むと、安心したようにまぶたを閉じた。
嬉しい気持ちが、じわじわとロゼルトの中に満ちていく。
平和な寝息を立て始めたピアの隣で、触れたりなんかしなくてもこうしていられるだけで十分幸せだと思いながら、ロゼルトも眠りについた。
◇ ◇ ◇
一夜明けて。
「――今すぐお引き取り願えますか?」
刺々しいピアの声がロゼルトに突き刺さる。
「ほ、本当にわざとじゃないんだ。昔の夢を見て寝ぼけてて……」
目を覚ますと、ピアは隙間がないほどしっかりとロゼルトに抱きしめられ、すりすりと頬ずりまでされていた。
「寝ぼけてて……?」
冷ややかな視線が、寝間着を押し上げているロゼルトの下腹部に注がれる。
「もっ、もう知ってると思うけど、朝に〝しるし〟がこうなるのは、いやらしい気持ちになったからでも、ましてや〝威厳の現れ〟でもなく……」
「アルドさまーーっ!」
ピアは問答無用で扉の前にいる騎士の名を叫び、ロゼルトはあっという間に外へとつまみ出されてしまった。
最初のコメントを投稿しよう!