34 婚約秒読み!?

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34 婚約秒読み!?

「ひと晩中呼ばれなかったんで、かなり関係修復が進んだんじゃないかと思ってたんですが……」  呆れ顔のアルドに、ロゼルトは半べそで訴える。 「ほんとに無意識だったんだよお……」  二日続けて、アルドは執務室でロゼルトの嘆きにつき合わされていた。 「眠るまでは彼女が優しく笑ってくれたりして、なんだかとってもいい感じだったんだ……」 「三歩進んで三歩下がったってとこですかね。いや、もうちょっと後退したかも」  王子がガクリと肩を落としたところで、部屋の扉を叩く音がした。 「俺が出ましょう」  扉を開けにいったアルドは、意外な訪問者に目を丸くする。 「父上?」 「ああアルド、やっぱりこちらに伺っていたのか」  そこには、アルドの父である黒髭のノーヴィエ侯爵が立っていた。  侯爵はどこかそわそわとしながら、廊下からロゼルトに挨拶する。 「王太子殿下、お邪魔して申し訳ございません」 「私に何かご用ですか?」 「い、いえ、用事があるのは殿下にではなく息子のほうで……」 「俺に?」  侯爵は何かを警戒しているかのように左右を見回した。 「こ、こちらで騒ぎを起こすわけにもいけませんので、ひとまず息子と――」 「――そこにいたのねっ!」 「ヒッ!?」  廊下の端のほうから怒気を含んだ女性の声が響いてくると、父と息子は同時に短い叫び声を上げた。 「な、な、なんで母上が王宮(ここ)に!?」 「お、お、落ち着け、アルド」    自身もあまり落ち着いていない口調で侯爵は息子に言い聞かせる。 「アルドちゃんっ、どういうことなのか話してちょうだい!」  バサバサと衣擦れの音が迫ってきたかと思うと、ふくよかな体を藤色のドレスに包んだノーヴィエ侯爵夫人がロゼルトの視界にも映った。 「あっ、あなたったら、わたくしに黙って――」  詰め寄った息子越しに王子の姿が見えたとたん夫人はハッと目を(みは)り、慌ててお辞儀の姿勢を取る。 「こ、これは王太子殿下……、とんだお騒がせを……」 「――侯爵夫人、お気になさらず」  寛容な笑みを浮かべて、ロゼルトはスッと立ち上がった。 「アルドに急ぎの話があるようですね。王宮はあちこちで人が耳をそばだてていますから、どうぞこの部屋を使ってください」 「えっ」 「私は資料を探しに席を外しますので」
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