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◇ ◇ ◇
アルド・スィ・アレアティは、年上の未亡人と秘密の交際をしている。
それが侯爵夫妻に知られたのではないかと、ロゼルトもアルドも考えた。
心配と好奇心をないまぜにしてロゼルトが隣の資料室から耳を澄ますと、責め立てるような侯爵夫人の声が聴こえてきた。
「わたくしには何でも打ち明けてくれる子だったのに……!」
「ま、まあ、アルドももう大人なんだから」
なだめようとした侯爵にも夫人は噛みつく。
「由緒正しい侯爵家の子息なんですから、異性との交際については親も関知しておくべきでしょうっ」
やはりその話か……と、アルドとロゼルトは別々の場所でごくりと喉を鳴らした。
「アモーリア、少し落ち着きなさい。君はずっと『末の息子にふさわしいお相手は、このわたくしが見つけてみせます!』なんて言い張って持ちかけられた縁談を断ってばかりいるが、いつまで経っても一人の候補者すら挙げようとしないじゃないか」
「だってっ、どの令嬢も完璧なアルドちゃんには釣り合わないんですもの!」
王子が聞き耳を立てているとわかっているアルドは、母の親バカぶりに顔を赤くする。
「アモーリア……、君が本当にアルドを〝完璧〟だと思っているなら、彼の女性を見る目も確かだと信じてあげてもいいんじゃないか?」
「……っ、でもっ……」
妻が言葉に詰まると、侯爵は「――アルド」と息子に語り掛けた。
「お母さまはまだ混乱しているようだが、私は賛成だよ」
「父上……」
「素晴らしいお嬢さんじゃないか。まあ、まだ交流するようになってそんなに経っていないはずなのに『婚約秒読み』と噂されるまで仲を深めていたことには、私も少々驚いたが」
「え……?」
アルドは訝しそうな声を漏らし、壁の向こうのロゼルトも首をかしげる。
例の未亡人との交際は、すでに一年ほどになる。
それに、この国では伴侶に先立たれた女性のことを「お嬢さん」と呼ぶことはまずない。
「あの……父上、誰が俺と『婚約秒読み』だなんて噂されてるんです?」
アルドが慎重に訊ねると、侯爵は不思議そうに訊き返した。
「誰って、ピア嬢だろう?」
「は……?」
「バレンテ伯爵家のピア・スィ・フィチーレ嬢。彼女の社交界お披露目のさいの付き添い役を私が務めたのも、何かの縁だったのかも知れんな」
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