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35 またとないお相手
「ね、根も葉もないデタラメです!」
アルドは言下に否定した。
「確かにピアさまは素晴らしい方ですが、王子を良く知る者同士としてお互いに同情――共感し合っているだけですよ!」
「しかし……」
「ア、アルドちゃん、本当にデタラメなの?」
半信半疑といった様子で、侯爵夫人が訊ねる。
「耳聡いご夫人たちから、いろいろと聞かされたのよ」
「どんなことを?」
「まずは、ピア嬢が初めて社交界にお目見えした女王陛下主催の舞踏会。あなたは王太子殿下と一緒に飛び入り参加して、最初から最後まであのご令嬢とばかり踊っていたんですって?」
「あ……」
ロゼルトの登場で会場じゅうが浮かれて気もそぞろだったため、アルドは自分たちのほうには注意を向けられずにやり過ごせたつもりでいた。
「同じ人と踊り続けるなんて、お互いに好意があると周囲に知らせているようなものよ?」
夫人の意見に侯爵も深く頷く。
「私はそのとき人騒がせな誤報のせいで会場にいなかったが、もしそんな光景を目にしていたら息子は恋に落ちたのだと思っただろうな」
「あ、あれは――」
アルドは懸命に嘘をひねり出した。
「どういうわけか、ピアさまのダンスの手帖が白紙のものとすり替わって困っていらしたので、俺で良ければと相手を申し出たんですよ」
夫人はまだ納得できない様子で訊く。
「じゃあ、ファルファーラ伯爵夫人の読書会で、とても親密そうに内緒話をしていたっていうのは?」
「割り当てられた席が隣り合わせになったんで、他の参加者たちの妨げにならないように小声で挨拶しただけですよ」
これは事実に近い話なので、アルドはよどみなく答えることができた。
「それなら、エスト侯爵家の仮面舞踏会で、あなたたちが痴話喧嘩をしていたというのは?」
「痴話喧嘩!?」
驚きの声を上げたアルドを、侯爵夫人は厳しい目つきで睨む。
「仮面をつけていたとはいえ、ピア嬢とよく似た背格好の女性と長身で黒髪の男性がテラスで何やら言い争っていたのを見たという人や、黒髪の男性が亜麻色の髪の女性の肩を親密そうに抱いて休憩室に入っていったのを目撃したという人もいたそうよ」
ふしだらな……と夫人は怒りをにじませた。
「ご、誤解です!」
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