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◇ ◇ ◇
「そうだったのね……」
あまりにも激しく否定したため、女王が納得してくれたときには二人ともぜいぜいと息を切らしていた。
「私もまさかとは思ったんだけど。もしかしたら、いつも辛抱強く支えてきてくれたアルドの優しさに傷心のロゼルトがよろめいたのかしらーって」
「ありえないですからっ!」
二人は声を揃えて嫌そうに叫ぶ。
今朝早く、長髪のカツラと女性用の寝間着を身につけたロゼルトの肩を抱いて城内の建物の陰を縫うようにして忍び歩くアルドを見掛けた者がいたらしく、その話が女王の耳にまで届いたのだという。
「でも西の塔に行ってたなんて……。やっぱりロゼはピアのことを諦めてなかったのね?」
「好きじゃなくなる方法があったら教えて欲しいよ……」
唇を尖らせてロゼルトが言うと、女王は深いため息をついた。
「ねえ、忘れてないわよね? あなたはこの社交の季節の間に結婚相手を見つけないと――」
「ストレーガ城送りでしょ? ちゃんと憶えてるよ」
ロゼルトはどこか挑戦的な口調になる。
「でも、その〝結婚相手〟ってのは、ピアでもいいわけだよねえっ?」
フォルタとアルドは驚いて目を丸くした。
「もし彼女が承諾してくれたら、僕はピアをお嫁さんにしたっていいんでしょう!?」
「ロ、ロゼ、ちょっと待って」
混乱したようにフォルタは指先をこめかみに当てる。
「元々はそうなるといいと思ってたからもちろん歓迎するけど、実際に、あなたたちの間でそんな話は……」
「出てるわけないよ! そんな兆しすら全くないっ!」
なぜか堂々と言い放つと、ロゼルトは切なそうに声を落とした。
「ただ……僕がいつまでも望みを捨てられないだけだ……」
フォルタはまたひとつため息をついた。
「ロゼ……、あなたがなかなか恋心を断ち切れないのはわかったけど、ピアが大切なら彼女の心の平穏を第一に考えてあげて」
「もちろん、小さいころからピアをいつも笑顔でいさせたいって思ってるよ。……ここのところは失敗してばかりだけど」
「その気持ちは、来週の夜会のときにも絶対に忘れないでね」
「来週?」
不思議そうに聞き返したロゼルトに、横からアルドが囁く。
「王配殿下のお誕生日でしょう」
「あ……」
王配レンスロットの誕生日を祝う夜会には、王都に住むほとんどの貴族や名士が招待される。
「ピアの社交先にはあなたやバレンテ伯爵家の人たちと顔を合わせないようなところばかりを選んできたけど、あの夜会だけはそうはいかないのよ」
女王は力を込めて息子に念を押した。
「ロゼ、お願いよ。大切なお父さまのお祝いの場なんだから、くれぐれも暴走しないでね……!」
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