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37 完璧な王子さま
あっという間に翌週が来て、王配レンスロットの誕生日を祝う盛大な夜会が始まった。
女王夫妻の心温まる挨拶と宰相の音頭による乾杯の後、白地に金糸の刺繍が施された衣装をまとった王太子は、きらびやかな笑顔を浮かべて出席者たちと気さくに言葉を交わした。
「エスト侯爵、あなたとご息女の素晴らしい提言のお陰で、子どもたちのための図書館の設置が各地で進んでいますよ」
「バシャドーレ会頭、先日はお伺いすることができず非常に残念でした。ええ、次の機会にはぜひ外国での愉快な思い出話をたくさん聞かせてください」
「ファルファーラ伯爵夫人、あなたが主宰する会から、才能ある作家や芸術家が続々と輩出されていますね。彼らはみんな、あなたのことをひらめきを与えてくれる女神のような存在だと讃えていますよ」
その絵に描いたような王子さまぶりは、直接話をしている相手ばかりではなく、周囲にいる人々までもうっとりと見とれさせてしまうほどだった。
「ああやって、自由自在にキラッキラを出し入れできるとこはさすがなんだよなあ……」
片手に飲み物を持ったアルドが、遠巻きに眺めながらぼそりと呟く。
母が熱心に打ち消して回ってくれたとはいえ、いっときピアともロゼルトとも噂になってしまった彼は、人々の好奇心をかき立てることがないよう二人とは距離を置いてひっそりと窓辺に佇んでいた。
アルドはピアのほうにもそっと目を向ける。
彼女は若葉を陽に透かしたような明るい緑色のドレスに身を包み、リオーネ王国のザンテ王子と笑顔で話をしていた。
初対面のときは女装したロゼルトに目移りしてしまったザンテ王子だったが、その後は会うたびにピアに惹かれていっているようで、元々はキリっとしていた目元がすっかり緩んでしまっている。
そこに加わろうと近づいていく若い男性たちも、ノルド子爵をはじめ錚々たる顔ぶれだった。
王子が取り乱さないといいが――と気を揉みながらアルドが視線を戻すと、珍しいことにロゼルトはピアのほうには目もくれず、ひたすら出席者たちに笑顔をふりまいていた。
どうやら今夜は〝ピアを視界に入れず!〟に徹して、平静を保つつもりらしい。
「進歩……なのか?」
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