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ピアも、ロゼルトの様子がこれまでとは違うことに気がついていた。
最初はまた何かとんでもない行動に出てくるのではないかと内心ビクビクしていたが、拍子抜けするほど平和に過ごすことができている。
今夜のロゼルトは少しもこちらを見ることなく、美しい笑みをたたえて出席者たちと優雅に歓談しているだけだ。
「ピア嬢? どうかなさいましたか?」
ザンテ王子から不思議そうに声を掛けられ、ピアはハッとした。
「す、すみません……」
ロゼルトのことばかり気にしているなんてどうかしている。ピアは申し訳なさそうに微笑んだ。
「乾杯のお酒がわたしには少し強かったようで……他の飲み物を取ってきますね」
自分が持ってきましょうといういくつもの親切な申し出をやんわりと断り、ピアは貴公子たちの輪から抜け出した。
今はもう苦手というほどではないが、やはり大勢の男性に囲まれると緊張してしまう。
ほっと息をつきながら光沢のある布がかかった台の上に並べられた飲み物をピアが眺めていると、いきなり背後から女性の声がした。
「端正な殿方をたくさん侍らせて、ずいぶん人気がおありなのね」
振り向いたピアは、大きく目を瞠る。
そこに立っていたのは、薔薇柄の刺繍がふんだんに施された青いドレス姿の若い女性だった。
くるくると巻かれた金髪は赤みがかっていて、自信たっぷりに輝く瞳はピアと同じハシバミ色をしている。
「……カーラさん……?」
「お久しぶりね、お姉さま」
カーラ・スィ・フィチーレは、にっこりと笑う。
「五歳の夏以来かしら? 今夜はお父さまと一緒に来たんだけど、どこかのおじさまと馬の蹄鉄の話で盛り上がってしまって、退屈してたところだったのよ」
言葉が出てこないピアに向かって、カーラは有無を言わせぬ威圧感を漂わせて言った。
「せっかく再会を果たせたことだし、姉妹水入らずで話がしたいわ。いいでしょう?」
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