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38 思いがけない頼みごと
「ねえお姉さま、わたくしを王太子さまの側仕えに推薦してくれない?」
大広間を出て廊下の突き当たりに置かれた長椅子に並んで腰掛けると、いきなりカーラは思いも寄らないことをピアに頼んできた。
「わ……わたしにそんな権限はないわ」
「あら、社交界に出る支度をしていただけるくらい女王陛下ご夫妻から可愛がられてるって聞いたわよ? お姉さまばっかりずるいなんて言わないから、口添えくらいはしてちょうだいよ」
「で、できないわ。それに、ロゼルトさまにはもう新しい側仕えがいらっしゃるそうよ」
「今は、男の子が仕えてるんですって?」
なぜかカーラは口の端に意味ありげな笑いを浮かべる。
「やっぱり王太子さまって、男女どちらでもいけるのねえ」
「えっ……?」
「この前は騎士のアルドさまともいい仲だなんて噂もあったし、ああ見えてずいぶん色好みな方なのね」
カーラは「嫌いじゃないわ。むしろすごく気が合いそう」と目を輝かせた。
「お姉さまは飽きられて暇を出されたようだけど、わたくしならもっと上手くやれると思うの。だって、どの遊び相手からも『君はいろいろと凄すぎる!』って褒められるんですもの。身ごもってしまえばこっちのものだわ」
よく飲み込めない話の連続に、ピアは困惑の色を濃くする。
「あの……カーラさんは側仕えの仕事について何か誤解を……」
「王太子さまはどうされるのがお好きなの?」
「えっ」
「攻めたいほう? 攻められたいほう? どんな体位がお好みかしら」
「何を言ってるの?」
思わず身を引いたピアを、カーラは「今さら純情ぶらないで」と、せせら笑った。
「つい最近まで王太子さまの身の周りのお世話を一人で担っていたお姉さまが、戯れに弄ばれていないわけがないでしょう?」
「た……戯れに弄ぶだなんて……。あの方はそんな……」
かつてピアも「欲望にまかせて、手近にいる物知らずな娘を慰み者にした」のだと、涙ながらにロゼルトを責めたことはあった。しかし、カーラが言っていることとはどこか違うような気がする。
「いやだ、まさか王太子さまって本当にお堅い方なのぉ?」
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