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カーラはつまらなそうに眉間に皺を寄せた。
「一緒に愉しめるようになるまでは面倒ねえ……。もしかして、何か引け目でもあるのかしら? あんなに完璧に見えて、意外とアソコだけは貧弱だったりして」
「アソコ……?」
カーラは呆れたような顔をしながら、下半身の一点を軽く指し示した。
「そっ、そこはけっして貧弱なんかじゃ――」
心外そうに否定しかけて、ピアはハッと口をつぐむ。
〝しるし〟の育成に貢献していると信じていたころの自負が、ついついよみがえってしまったようだ。
カーラはニヤリとする。
「やっぱり、そういう関係だったんじゃない」
「ま、待って。今のはそういうのじゃなくて……」
「アソコもご立派ならますます結構なことだわ! ねえお姉さま、わたくしがお妃さまになったあかつきには悪いようにはしないから、ぜひ推してちょうだいよ」
「だから、わたしには無理よ」
「――妬いてるの?」
「えっ?」
「閨でも面白みがなさそうなお姉さまとは違って、わたくしなら王太子さまと末永くうまくいきそうですものね」
すべてお見通しとでもいうように、カーラは自信たっぷりに決めつける。
「鈍くさいお姉さまが女王陛下ご夫妻から目をかけられるはずがないんだから、実のところは、王太子さまから好き勝手にさんざん遊ばれたあげくに見限られて、その慰謝料と口止め料代わりに社交界に出してもらったんでしょう?」
「邪推でものを言わないで」
「あら本当に邪推かしら? 夜会が始まってからしばらく観察してたけど、王太子さまはあなたのことをそれはもうきれいに無視してたじゃない!」
願いを聞き入れてもらえない腹いせに、カーラはピアを言葉で痛めつけようとしていた。
「ああ、かわいそうなお姉さま! お父さまから捨てられて、王太子さまからも捨てられて。誰からも大切にされない人生から抜け出そうと、今は必死で未婚の貴公子たちに媚を売っているのね!」
しかし、酷い言葉を投げつけられても、不思議なほどピアの気持ちは波立たない。
幼いころのように心に生傷を刻まれているような感覚はなかった。
西の塔で「ああ、よかった……!」とロゼルトから手を握られたときの温かさを思い出すだけで、なんだか体の底から力が湧いてくる。
臆することなく、ピアはカーラの目を見てきっぱりと言った。
「確かに、お父さまはわたしを捨てたんでしょうね。でも、他のことについては全くの見当違いだわ」
カーラはカッとなって語気を荒らげる。
「いっ、いくら強がったって、あなたがひとりぼっちだってことに変わりは――」
「やめるんだ」
廊下の奥から、割って入るように男性の声が響いてきた。
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