39 わがまま令嬢の暴走

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 出席者たちはざわつき、奥の玉座に腰掛けている女王夫妻は揃って訝しげに眉をひそめた。 「や、やめなさい、カーラ……」  おろおろと歩み出た父親を無視して娘は続ける。 「お立場を利用して男女を問わず配下に手をつけるといった乱倫ぶりは、王室の品位に大きく傷をつけていますっ!」  思いがけない内容に場内がしんとすると、静聴に気を良くしたのかカーラの弁舌はいっそう滑らかになった。 「こちらの私の憐れな義姉(あね)ピア・スィ・フィチーレは、王子が成人するまで側仕えを務めておりましたが、将来に期待を持たされてさんざん弄ばれたあげく、適当な男性に下げ渡されるため社交界に出ることになったのです!」  勝手な思い込みを喧伝するカーラに、ピアはぎょっとする。 「カ、カーラさ……」 「そればかりかっ! 王子は幼なじみの騎士であるアルド・スィ・アレアティさまや、現在の側仕えである少年にまで食指を動かしたとのこと! 一部で流れていた義姉(あね)とアルドさまの交際の噂も、双方との(ただ)れきった関係を体よく清算しようと目論んだ王子が流したものだったのでしょう!」  人垣の向こうで、アルドが「は?」と小さく声を漏らす。 「――皆さまっ!」  正当な告発者であるかのように、カーラは堂々と招待客たちに問いかけた。 「次代の君主としての自覚も誇りもないこの方に、わが国の未来を託すことなどできるのでしょうか……!?」  突拍子もない話をあまりにも自信たっぷりに聞かされ、出席者たちは騒然となる。 「あ、あの王太子さまが、まさかそんな」 「にわかには信じがたい」 「でも、妙に確信めいてるのが気になるな……」 「女王陛下ご夫妻の御前でここまで言い切れるなんて、もしかして本当に勇気ある告発だったりするのかしら……?」  混乱の渦の中、凛とした声が響いた。 「下品な妄想で作り上げた嘘で、私の大切な人たちの名誉を傷つけないでいただきたい」  発言者である王子に、皆の視線が集まる。 「う、嘘なんかじゃ――」  カーラが食い下がろうとしたとき、突然、会場の隅で誰かが甲高く叫んだ。 「根も葉もない作り話は、やめてくださいっ……!」  声が上がったほうに、招待客たちは目を向ける。  召使いが出入りするための小さな扉の前に、ロゼルトの新しい側仕えが涙を浮かべて立っていた。
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