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「……スペンもアルドも羨ましいな……。大好きな女性と相思相愛だなんて……」
涙がロゼルトの頬をつつっと伝い、人々は息を呑む。
「ピアのことが好きで好きでたまらないのに、僕の恋はいつまで経っても報われないんだ……」
切なさを募らせたロゼルトは、いよいよ本格的に泣き始めてしまった。
しんとした大広間にすすり泣きだけが聴こえる中、誰かがぽつりと呟く。
「ずっと一途に想い続けていらっしゃるなんて……素敵」
それをきっかけに、あちこちで好意的な声が上がった。
「爛れきってるどころか、純情すぎるんだが!?」
「確かに、ピア嬢は素晴らしい方だからなあ」
「あれほど完璧な王子さまでも、片想いに苦しんだりなさるのね」
「なんだか親近感が湧いてくるな」
「――でも」
わいわいと盛り上がっている中、ふと誰かが疑問を口にした。
「片想いということは、ピアさまはどういうわけか王太子殿下のお気持ちには応えられないということですのね……?」
――あんなふうに並んでいらしても、とてもお似合いなのに?
――ピア嬢には他に想い人でも?
――幼いころから近くにいすぎて、ご兄妹のような感覚なのかも?
――ピアさまは謙虚だから、気後れしてしまっているだけでは?
いくつもの不思議そうな視線がピアに集まる。
「えっ、あ……」
おろおろとピアが横を見ると、ロゼルトはまだ手の甲で目元を押さえてシクシクと泣いていた。
「あ、あの……、わ、わたしは……」
身を縮め、言いにくそうにピアは告げる。
「ロゼルトさまのお気持ちを、いま初めて知ったばかりで……」
皆は「えっ」というような顔になった。
「えっ」
ロゼルトは実際に声に出し、濡れた目でピアを見る。
「ぼ、僕、伝えてなかったっけ……?」
「は、はい」
「いや、しょっちゅう言ってたよね? 『ピア、大好き!』って」
「そ、そうですね、王女さま時代は。でも当時は、側仕えに対して親愛の情を示してくださっているのだと思っていましたから……」
ロゼルトは愕然として言葉を失う。
思い返せば確かに、王子になってから恋心を打ち明けられる機会などなかった。
「ピア。僕は――」
改まったように何か言いかけたところで、ロゼルトは今さらながら自分たちが衆人環視の中にいることを思い出し、おたおたと慌てた。
「そ、外で話そう!」
王子はピアの手を取り、庭園につながる大きな掃き出し窓のほうへと足早に向かっていった。
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